ゴーン被告の退任後の支払い契約は
合法的手段か違法な裏報酬のからくりか

 6月の被告人質問では「退任後の契約」を巡って検察側と弁護側が応酬。ケリー被告の弁護側は「ゴーン被告を日産に引き留めるため」顧問料などとして支払う合法的手段だったと主張。検察側は「(本来支払うべき)報酬との差額の穴埋め」と違法性を強調した。

 9月29日に開かれた論告求刑公判では、検察側が「保身と金銭的利益を満たそうとするゴーン被告の私欲をかなえようとした。企業のあり方として論外」と指弾。ケリー被告を「未払い報酬を別名目で支払う『裏報酬』の仕組みを支えた」として懲役2年、日産に対しては「長期間にわたり犯行が行われ、大企業としてまったくチェック機能が働かなかったことは問題だ」として罰金2億円を求刑した。

 10月27日の最終弁論で、ケリー被告は「私はいかなる罪も犯していない」、同弁護側は「未払い報酬があったとする直接的な証拠はなく、元秘書室長らの証言も曖昧で信用できない」と主張。日産側は「ゴーン被告の私利私欲を実現するためだけに行われた犯行で、日産への非難の程度は低い」と情状酌量を求めた。

 以上の通り、日産側は起訴内容を全面的に認め、早期の幕引きを図っている。一方、検察側とケリー被告側は主張が真っ向から対立し、60回を超える公判が開かれたが、双方に妥協点は皆無だ。

 冒頭に記載したが、この裁判の行方は識者の間でも見解が割れている。刑事裁判というのは、公判を傍聴しているとだいたい結果は予想がつくものだが、全国紙社会部デスクも「今回は分からない。あらゆる結果を想定して予定稿を準備している」と話していた。

有識者も予測がつかない
前例のない事件の判決

 判決の行方について、ある金融関係者は「日産の内規がどうなのか分からないので一般論だが」としながら、「判断は報告書に記載するべきタイミングが『経費として計上された時』なのか『実際に支払われた時』なのかで変わってくるのではないか」と説明。ただ「公判で『税務調査で計上した報酬を取り下げた』という元秘書室長の証言があり、ゴーン被告に支払うために別枠でストックしていたなどの実態があれば、検察側の主張も分からなくもない」と話した。

 その上で「こうしたケースが刑事事件に問われたのは過去にないはずなので、この判決が確定した段階で、判例として『報告書への記載はこうあるべき』と認識されるだろう」との見方を示した。