東京ディズニーランドは
自己負担で液状化対策を行った

 液状化現象とは、埋め立て地など水分の多い不安定な土地で地震が起きた場合、土中の水分が地上に噴出する現象だ。11年の東日本大震災の際、千葉県浦安市などの住宅街で、道路が広範囲で陥没したり、建物が傾いたりといった被害が発生した。

 だが、同市にある東京ディズニーランドやディズニーシー内の敷地はこうした被害が起きなかった。

 ディズニーランドなどでは、施設の建設時に「サンドコンパクション工法」と呼ばれる対策が取られた。水分の多い土の中に柱状に固めた砂を入れ、上から押し固めて地盤の水分などを抜き取るというものだ。

 大阪IR計画に話を戻すと、21年6月8日の市の会議資料には、MGMオリックス連合から市に対する「事業者意見」として、「東京ディズニーランドの液状化対策が理想」と記載されていた(下写真)。

大阪市資料12021年6月8日の会議について、市IR推進局が事業者側の意見として記した内容、赤線は編集部 拡大画像表示

 しかし東京ディズニーランドでは、埋め立てた土地を分譲した千葉県によると、液状化対策工事は運営会社のオリエンタルランドが自ら費用を負担していた。

 しかしMGMオリックス連合は、東京ディズニーランドでは事業者自らの負担で行ったサンドコンパクション工法による工事が「理想」であり、これを市の負担で行うよう主張したのである。

 事業者については当初、カジノ運営大手のゲンティン・シンガポール(シンガポール)とギャラクシー・エンターテインメント・グループ(香港)も応募するとみられていたが、実際には応募せず、20年2月に応募したのはMGMオリックス連合の1者だけだった。

 その後、土壌汚染については21年1月に市が事業者に説明。液状化対策については20年1月~12月に事業者が行ったボーリング調査でリスクが判明したとして市が対策を求められた。こうした経緯から、市は事業者を再度募集。MGMオリックス連合の1者が応募し、21年9月に決まった。

 土壌対策費計790億円の内訳は、土壌汚染対策費が360億円、液状化対策費が410億円、地中埋設物の撤去費が20億円。市はこれまで市有地の売却や賃貸の際、こうした費用を公費負担しないのが原則だった。

 だが、松井市長が最高実力者として君臨し、吉村洋文大阪府知事が代表を務める大阪維新の会は、カジノを含むIRを看板政策に掲げている。どうしてもIRを実現したい維新や大阪市側が、事業者に足元を見られ、負担を強いられたとの見方がもっぱらだ。

 なお大阪港湾局は21年6月29日の会議で、液状化対策工事について、造成当時の基準に従って埋め立てられた土地であれば、建築基準法上、土地を造成した市の責任は問えないと主張。前述の東京ディズニーランドや、横浜市の湾岸エリアでも、土地所有者が実施した例はないと訴えた。

 その上で、「夢洲におけるIR事業の実現という“政策的な観点”から負担するという整理が必要」と、要するに政治判断を求めた。

 この会議で松井市長は「土地所有者としての“責任”は免れない」と明言。公費負担の方針が決まった。

 オリックスの広報担当者は「東京ディズニーランドと同様の対策を必ずしてくださいということではないが、土地の取引では所有者が対策をすることが一般的だ」と話した。

 なおこの費用については、大阪港湾局が所管する特別会計の港営事業会計で負担し、収支が悪化した場合は一般会計からの繰り入れで救済することとなった。