プーチン大統領は、ウクライナがミサイル攻撃で簡単に降伏すると思っていたのだろう。「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国民に支持されていない。ロシア軍がウクライナに入れば、大歓迎で迎えられる。ゼレンスキー大統領を失脚させて、新しい親ロの大統領をウクライナ国民が自ら選ぶ。『力による現状変更』ではない。ロシアに対する経済制裁は国際社会の支持を得られない」。だが、プーチン大統領の楽観的な思惑は外れた。ウクライナが抵抗できている理由は何か。またロシアが撤退しても、さらなる脅威が生まれる可能性がある。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
ロシアの当初の見立ては大誤算
ロシアのメディア・RIAノーボスチが、「ウクライナはロシアの手に戻った」「ロシア、ベラルーシ、ウクライナの3つの州が地政学的に単一の存在として行動している」「我々の目の前に新たな世界が生まれた」と、ロシアの「勝利宣言」を誤送信する「事件」が起きた。
プーチン大統領の軍事侵攻の目的がわかる内容だった。しかし、たとえ、苦心惨憺の果てにウクライナを制圧しても、ロシアの目指す「新たな世界」など絶対に出現しない。
要するに、東西冷戦終結後の約30年間で、旧ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退した。だから、たとえ、ウクライナを制圧しても、それはリング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、やぶれかぶれで出したパンチが当たったようなものなのだ(本連載第77回)。
ロシアは、「進むも地獄、引くも地獄」という状況に陥っているのではないか。まず、緒戦の電撃的な攻撃でウクライナが降伏しなかったことが誤算だった。
ウクライナが徹底抗戦できたのは、ウクライナで自由民主主義が着実に根付いてきていたからだ。