産業ガス最大手の大陽日酸は20日、ロシアでヘリウム開発に乗り出すことを明らかにした。米国の100%子会社を通じて、ロシアの国営天然ガス企業と提携するもので、2018年に生産を開始する計画だ。
今回の提携の背景には世界的なヘリウム不足がある。11月末に東京ディズニーリゾートが風船の販売を休止したことが話題になったが、これは風船に詰めるヘリウムガスの調達が困難になったからだ。事態は悪化し、今はディズニーにとどまらず、街の風船業者もヘリウムガスの入手が困難になっている。英国では「今年のクリスマスシーズンはヘリウム風船を禁止すべき」と主張する化学者まで現れている。
ヘリウムは天然ガスを採掘する際に副生成物として精製される。世界6ヵ国(米国・ロシア・ポーランド・アルジェリア・カタール・オーストラリア)でしか取れない希少かつ有限な資源。その7割は米国産で、日本は国内需要のほぼ全量を米国からの輸入に依存している。
用途の約6割は医療用磁気共鳴画像装置(MRI)の冷却材。光ファイバーや半導体の製造工程でも使われる。また、分子が小さく目に見えない傷穴を通る特性を生かして、工業機械の精密検査でも使用される。
設備投資の多い中国やインドなど新興国のヘリウム需要が伸びるなかで今夏、米国のヘリウムプラントでトラブルが発生。そのための減産が長引き、需給逼迫度が増した。
もっともヘリウム不足は慢性的なもので、2006年頃から不足傾向にあった。希少資源であるため米国も輸出を絞るフシがあり、「軍需産業にも使われているからでは」という噂もある。輸入価格は6年前と比べて2倍近くに跳ね上がっている。