稲盛和夫氏経営学者の野中郁次郎氏との対談中に突然、軍歌を歌い出したという稲盛和夫氏。その理由は? Photo:AFP=JIJI

平和を愛する「経営の神様」稲盛和夫氏が、対談の途中に突然軍歌を歌い出した――。そんな仰天エピソードを目にしたので、今回は「歌の力」について取り上げる。なぜ稲盛氏は軍歌を歌い出したのか。そして、ロシアの侵攻によって戦火に見舞われているウクライナにも思いを馳せたい。(イトモス研究所所長 小倉健一)

稲盛和夫氏が対談の中で
突然軍歌を歌い出した理由

 圧倒的な軍備により優位に立つロシア軍。ウクライナ軍の苦戦が続く。

 ウクライナの軍歌「We were born in a great hour(私たちは偉大な時代に生まれた)」は、そんな劣勢のウクライナ軍を励ましているのだろうか。

私たちは偉大な時代に生まれ
戦火や銃撃の炎で祖国ウクライナを失う苦しみによって育てられた
私たちは怒りと、敵への憎しみを与えられた
だから、人生を戦い抜く
硬く、いつまでも、壊れない、花崗岩のように
泣いても誰にも自由は与えられない
戦士が平和を手にするのだ
栄光も報いも求めない
私たちへの報酬は、戦うことだ
囚われて奴隷として生き長らえる喜びよりも
戦って死ぬことを選ぶ

 以上は、筆者が訳したので、正確に知りたい人は原文を当たってほしい。インターネットで検索するとYouTubeに曲がアップされているのが見つかる。ウクライナ語なのでどこの部分を歌っているのかがよく分からないものの、気分が高揚して仕事が捗る。

 それにしても、ウクライナの現在を、見事に表しているような一連の歌詞に驚く。2度の世界大戦の中心地だったヨーロッパの東側に位置し、ロシアという大国の隣国だからなのか、常に他国から侵略を受ける宿命を背負っているのだろう。

 各国が難民を受け入れる姿勢を明確にしている状況でウクライナ人は、ロシアの侵攻を受けていない地域ではいくらでも逃げることができるはずだ。それでもウクライナに残り、ロシアの圧倒的火力に抵抗を続けている人に対し、敬意を表したい。

 どうして、ウクライナの軍歌を取り上げようなんて考えたのかというと、「一流経営者が歌うカラオケ」について調べていたことに端を発する(苦笑)。そのときに京セラの創業者で「経営の神様」と呼ばれる稲盛和夫氏が「突然、軍歌を歌い出す」というエピソードに遭遇したからだ。

 カラオケについてはまた別稿で詳しく述べるとして、経営の神様が、社員と共に軍歌を歌うとなると、この平和の日本において物騒な話にも聞こえる。しかし、稲盛氏は国際平和について誰よりも行動し、実践していたことを付言しておく。

 今も版を重ねる『失敗の本質』(中公文庫)の筆者の一人であり、経営組織論の大家である野中郁次郎氏。2015年秋に、初めて稲盛氏と対談の場で会った際、稲盛氏が突如「軍歌」を歌い出したのに驚かされたという。

 一体どんな経緯だったのか。対談のテーマは、稲盛氏が成し遂げた日本航空(JAL)の再建だったという。