それまで蛭間は木澤に2三振を喫していたものの、2球目の外角球を踏み込んで振り抜き、レフトスタンドにたたき込んだ。

 そして11月8日。プレーボールの午後1時直前、曇りがちだった空に日が差してきた。

 勝ったほうが優勝。引き分けならば早稲田優勝。

 早稲田の先発は今西拓弥。来季のエース候補の3年生・徳山壮磨や西垣雅矢ではなく、4年生の今西である。

「考え抜いての策。なぜ徳山や西垣ではないのか、学生に話をして、納得させました」

 27個のアウトをいかに取るか。小宮山は「27個のアウトは平等ではない」と考えている。「とりわけ重要なのは9回の3つのアウト。勝っているときには、相手攻撃から最大の抵抗を受ける。これが浅い回だと、打線も手探りなところもあり、なんとかやりくりできる」という。

 2メートル左腕の今西のボールは打者にとっては対応しにくいが、制球に不安があった。

「今西でどれだけアウトを重ねられるか。2失点まで我慢して、もし危うくなったら西垣に継投する」

 こう小宮山は投手陣に伝えた。

 先発投手を皆が盛り立てる。2つの四球と2つのヒットを許したものの、2度のダブルプレーが飛び出して2回を無失点で乗り切った。

「今西はよくやった。2回終わって、勝利を確信した」

 策が図に当たったのである。3回からは西垣、以降も投手陣フル回転で8回からの柴田迅へとつないだ。

 慶応も小刻みな投手起用を経て、7回終わって2‐1で慶応リード。

 8回表にエース木澤がマウンドに上がった。昨日のリベンジを果たして優勝を、の意気だろう。木澤の前に早稲田の2番からの上位打線は三者凡退。6球で打ち取られた。

 早稲田も踏ん張る。8回裏、柴田は2アウトを取った後で連打されて一・三塁。ここでエース早川がマウンドに上がり、レフトフライに打ち取ってピンチをしのいだ。

1点ビハインドで9回へ
奇跡は起こるのか

 そして9回表、早稲田最後の攻撃。

 5番丸山壮史から。下位打線とはいえ、6番野村健太には長打があり、7番熊田任洋は勝負強い。前日も蛭間の2ランホームランの前にヒットを放っている。そして8番には蛭間が控えている。

 同点に追いつきたい。なんとしても出塁したい。だが丸山三振。野村レフトフライ。

 2アウト。