「鎖の女性」事件を追及しようとする動きは、SNS上にとどまらなかった。北京大学や清華大学など全国の十数の大学の学生たちは連名で声明を出し、政府にきちんと調査を行うよう要請した。

 世論からの責任追及を受け、徐州市豊県政府は4回にわたり調査報告を発表した。さらにその上層部である江蘇省も調査チームを結成し、調査書が公開された。しかし、どれも核心的な事実には至らず、国民の不信感は一層高まり、批判の声が収まることはなかった。

 見た目や年齢から、「鎖の女性」は1984年生まれで1996年に失踪した四川省南充市の女性、李瑩(リー・イン)氏ではないかといわれているが、政府はそれを認めようとしない。

 そのほかに、「『鎖の女性』の結婚は法に基づいているのか?」「なぜ、一人っ子政策の下で8人の子どもを産むことができたのか?」「地元政府が一連の拉致・人身売買、虐待を黙認、加担していないのか?」など、疑問の多くは残ったままである。

年間100万人が行方不明になる中国
誘拐、人身売買は「人ごとではない」

 北京冬季五輪が開催されている真っただ中にもかかわらず、人々の関心は「鎖の女性」に一点集中していた。中国のSNS「微博(ウェイボー)」では、この話題に関連する投稿へのアクセス数が40億を超えているという。

 なぜ、この事件は中国の人々からこれほど強い関心を集めているのか。そしてなぜ、力を緩めることなく、事件の真相を追及しようとするのか。

 それは、この事件が中国国内で暮らす人にとって決して人ごとではなく、誰の身にも起こり得ることだからだ。

「中国走失人口白皮書2020(中国行方不明人口白書)」によると、2020年の全国の行方不明者数は100万人だった。2016年は394万人、2019年は129万人となっている。毎年数百万に上る行方不明者には、高齢者や女性、子どもが含まれている。

 行方不明となった女性や子どもの身に何が起こっているのか。そして、その中でどれくらいの人が人身売買の被害に遭っているのか。