「仕事だから」と自分を押し殺さなくても「苦手なこと」は続けられる

この3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏が「別解力の高い起業家」として注目するのが、食べチョク代表 秋元里奈氏。2016年に起業し、農家や漁師からこだわりの新鮮な食材などを直接購入できる国内NO1の産直通販サイト「食べチョク」を運営している。2021年には初の著書『365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘』を出版。毎日会社のロゴ入りTシャツを着る起業家として有名で、メディアへの出演も多い。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代に圧倒的な成果を出す「起業家の思考法」について、おふたりに語っていただいた。
連載第2回のテーマは「嫌なことや苦手なこと」とどう向き合えばいいか。「前に出るタイプではない」と自らを語る秋元さんが、それでもメディアに出続けている理由に、ヒントがあった。
(写真 株式会社じげん・津田咲 構成 林拓馬)

「失敗したくない」から、意識的にリスクを取っている

平尾丈(以下、平尾) 秋元さんはメディアへの露出も積極的にされていますが、周りからの反響はどうですか?

秋元里奈(以下、秋元) メディアへの露出って、あまり肯定的に捉えられない事が多いんです。「承認欲求を満たすために出てるんじゃないか」とか。また、私自身もともと前に出るのが苦手なタイプなので最初はためらいもありました。

 ただ、マーケットプレイスは差別化しづらい事業なので、「どうやったらブランドとして成り立つか」を考える必要があります。

 食べチョクの場合は、「生産者さんに価値還元するために立ち上げた事業であること」が一つのカラーなので、私が前に出て創業ストーリーを話すことが会社の思想を伝えることに直結するんです。

 ただ単に「生産者さんから直接買えます」と話すのではなくて、「私の実家の農業が廃業していて、生産者さんのこだわりが正当に評価される社会を作りたいから立ち上げたサービスです」と伝えると、そのストーリーに共感してくれる人がいます。

「仕事だから」と自分を押し殺さなくても「苦手なこと」は続けられる秋元里奈(あきもと・りな)
食べチョク代表
1991年生まれ。神奈川県相模原市出身。慶應義塾大学理工学部を経て、2013年にDeNAに入社。16年に一次産業支援ベンチャー「ビビッドガーデン」を創業。翌年に産直通販サイト「食べチョク」を開始。『Forbes』の「アジアを代表する30歳未満の30人」に選出。現在、TBS系列の報道番組「Nスタ」にコメンテーターとしてレギュラー出演中。著書に『365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘』(KADOKAWA)がある。

平尾 会社のために戦略的にやっている、ということですね。

秋元 正直、周りの人からは「出ない方がいい」っていう声のほうが多かったんです。メッセージが誤って伝わってしまうリスクもありますし、「ちゃんと事業に集中しているのか?」と疑問の目を向けられてしまうこともあります。

平尾 そうですよね。既存の思考ではリスクの観点からも「メディアには出ない」が正解だと思うんですけど、そこを別解で突破されているのは、すごいなと思います。

 みんなに「止めろ」って言われたのに「やる」と意思決定したとき、リスクは「ある」と思っていたんですか。「無い」と思っていたんですか。

秋元 自分の中ではリスクは限りなくゼロに近いと思っていました。私がもともとリスクに関しての感度が高くて、「失敗したくない」という思いがすごく強いので、何か物事を見るとすぐリスクが思い浮かんじゃうんです。

 起業家としては本来良くない傾向だと思うんですけど、ポジティブに捉えると、私が「これはやる」って決めたことは、周りの人からはリスクがあると思われていたとしても、その時にはすでにそのリスクを潰していることが多いんですよね。

 一方で、意識をしないとリスクを取りに行かないので、「今ちゃんと取るべきリスクを取れているか」は振り返るようにしています。メディア露出もとっているリスクの一つですが、事前に想定されるリスクを書き出し、それぞれに対応策を考えてから、「これは取るべきリスクだ」と判断をして実行しました。

平尾 リスクを感じるがゆえに、他の人が言ってくるころにはもう考え尽くしていると。それは素晴らしいですよね。