サハリンにあるロシア初の液化天然ガス(LNG)プラントPhoto:SPUTNIK/JIJI

エネルギーは国家の存亡に関わり、地政学と切っても切り離せない関係にある。特集『混迷ウクライナ』の#17では、ウクライナ危機をきっかけに転換点を迎えようとしている、世界の「エネルギー地政学」を読み解く。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

ウクライナ外相が激怒した
シェルの“爆安”ロシア産原油の購入

「ロシアの原油にウクライナの血のにおいを感じないのか」。ロシア軍がウクライナに侵攻して首都キエフに迫る中、ウクライナのクレバ外務大臣は3月5日、ツイッターで怒りをあらわにした。

 クレバ外相が怒りの矛先を向けたのは、石油メジャーの一角、英シェルだ。シェルは2月末、同じ石油メジャーの英BPに続き、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてロシア事業から撤退する意向を表明していた。

 ところが、である。3月5日、シェルがロシア産原油72.5万バレルをスポットで調達していたことが判明したのだ。ウクライナ危機を契機に国際的な原油価格の指標である北海ブレントが1バレル当たり100ドルを突破して爆騰する中、シェルが調達した原油は同じ北海ブレントで28.5ドルという圧倒的な安値だった。

 ウクライナ危機以降、多くの石油会社は、“人道的観点”からロシア産原油の購入を自主的に控えていた。このため、ロシア産原油は買い手が付かずに爆安となっていたのだ。

 英「フィナンシャル・タイムズ」紙電子版(3月6日付)によると、シェルはこの取引によって日本円にして約23億円の利益を得る可能性があるとしている。

 ウクライナ危機のさなかにロシア産原油を購入した上、どさくさに紛れて利益を上げようとしているシェルの姿勢に、国際社会から厳しい批判が集まった。

 シェルはロシア産原油の調達に関する声明で、「できる限りロシア産原油の代替を選ぶつもりだが、すぐにできることではない。なぜなら、ロシア産原油は世界のエネルギー安定供給に重要な役割を担っている」と釈明した。しかし、国際世論から追い込まれる形でシェルは3月8日、ロシア事業からの完全撤退を決めた。

 次ページからは、ウクライナ危機をきっかけに転換点を迎えようとしているエネルギー地政学を解説する。また、新しいエネルギー地政学の観点から、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事らが参画するロシアのエネルギープロジェクトの重要性も読み解く。