生々しいマルクス・アウレリウスの『自省録』

 それが民衆の上に立って生きるエリートとして、いかにもふさわしい思想だと考えたからでしょう。

 その典型的な人物がローマ皇帝のマルクス・アウレリウス(在位161-180)でした。

 彼の時代、ローマ帝国は最盛期に陰りが見え始め、東北方面からの諸部族の侵攻と財政の窮乏で不安定な時代に差しかかっていました。

 その中で彼は奮闘を続け、最前線の戦場であったウィンドボナ(現在のウィーン)で死去しています。

 このマルクス・アウレリウスの著書『自省録』には、彼の真情が切々と語られています。

 自分は皇帝に生まれたから一所懸命頑張って仕事をする。

 そして高い徳を求めて生きる。

 その結果、自分も幸福になるのだったら嬉しいが、単に自分の幸福を求めるために徳を積むのではない、という強い思いが読む側の心に伝わります。

 ローマ帝国の指導層は彼ほどではなくても、ほとんどがストア派の考えに立っていたようです。

 酒池肉林(しゅちにくりん)に走るタイプの指導者が意外に少なく、ローマ帝国が長く続いたのには、ストア派の考え方がリーダー層に広く受け入れられていたことも、大きく影響していたと思います。

 また、後にローマ帝国を範とした大英帝国の指導層がノブレス・オブリージュ(高い地位の人が持つ社会的義務)を大切にしたこととも相通じるところがあります。

 『哲学と宗教全史』では、哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を、出没年付きカラー人物相関図・系図で紹介しました。

 僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップも盛り込んでみたのでぜひご覧いただけたらと思います。

(本原稿は、13万部突破のロングセラー、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です)