中国の研究者たちによる現状分析、
五つのポイント

 ちょうどそこで、「中国戦略思想庫」という中国のシンクタンクが研究者のスピーチをもとにまとめたある緊急報告書が送られてきた。その研究者の顔ぶれに私は注目した。

 紀明葵(中国国防大学訓練部副教育長、少将)、王湘穗(退役空軍大佐、北京航空航天大学教授、軍事戦略関連の著書として広く話題になった『超限戦』の著者の一人)、黄平(中国社会科学院台港澳研究センター主任)、 喬良(空軍少将、『超限戦』の著者の一人)などだ。

 報告書の主な内容を簡潔にまとめてみた。

一つ目のポイント
〜プーチンは世界の変化に鈍感だった

 プーチン大統領は世界の変化と趨勢を認識しておらず、本当の意味での勝利を得ることが難しい。今回の戦争の交戦側であるロシアとウクライナは、いずれも戦争の被害を受けることになるだろう。戦争開始早々、ロシア軍の行動は慌ただしく準備不足ぶりをさらけ出した。この二十数年の間に世界は大きく変化していたが、プーチン大統領はそれに対する認識不足で、戦争が及ぼす影響の深さを予断することもできなかった。

 今日の戦争は単なる軍事衝突や都市や領土の占領を内容とするものではなく、多分野から多様な形で参戦できる範囲の広い経済戦である。国土の問題は、もはや戦争で最も重要な内容ではなくなっている。プーチン大統領はたとえ戦争で勝利したとしても、さらに大きな代価を払うことになるだろう。現在、ロシアはあらゆる方面からの制裁に直面している。

二つ目のポイント
〜欧州は後退

 欧州は客観的にはNATO(北大西洋条約機構)に依存せざるを得ないが、主観的には米国からの独立がより切実になる。欧州はこの戦争で何の利益も得られないだけでなく、欧州統一の歩みが遅くなり、大きく後退することになるだろう。

三つ目のポイント
〜平和な世界に戻れない

 世界規模でエネルギー供給と貿易が影響を被り、世界が再び平和な時代に戻ることは難しい。戦争がどのような規模まで拡大するのかは現時点で判断することが困難だが、ユーラシアの秩序がすでに乱れてしまったことは確かだ。ロシアとウクライナの戦争は世界的な秩序失墜の幕を開け、世界は平和な時代に戻ることが難しくなっている。

四つ目のポイント
〜クライマックスはこれから

 米国の軍需品を大量に必要とする今回の戦争は米国国内の金融危機の緩和につながる部分もある。米国国内の金融危機を解消するという目的が達成されない限り、米国が戦争の終結を簡単に呑めないだろう。そのため、現段階はまだ戦争の序幕にすぎず、クライマックスはまだ訪れていない。