六つ目のポイント
〜中国政府への提案

 中国が中立を保ち、慌てて対応する必要はなく、世界新秩序の構築を主導する戦略的時期として今をとらえなければならない。

 ロシア・ウクライナ問題に対して、我々は中国政府上層部の参考に供するために、以下のことを提案する。

 第一に、今回の戦争が長引けば長引くほど、欧米とロシアの三者が力を消耗し、中国に有利なので、戦争の終結を急がせる必要はない。ただ、警戒しなければならないのは、米国が参戦すれば戦争が暴走する恐れがあり、核戦争の勃発は絶対に避けなければならないことだ。

 第二に、ロシアであれ、米国であれ、欧州であれ、各方面の求めに中国は急いで応じる必要はない。各方面が消耗しきって維持できなくなりそうな時こそ、中国が登場するベストタイミングだ。

 第三に、中国は戦争に巻き込まれてはならず、現在の中立姿勢を保つべきだ。戦争期間中の調停、戦後の新秩序構築の主宰に対して、現在の中国が保つ中立的な態度は、将来仲裁者の役割を担うのに有利になるだろう。特に、米国のわなにはまって中国が完全にロシア側に寄りかかってしまえば、西側の世論が作りだした「中ロが悪の枢軸」論に乗じてしまう。そのような材料を提供してはならない。

 第四に、中国は国家主権と領土保全の尊重を旗印に、戦後世界の新秩序と新局面を再構築しなければならない。いかなる国も他国の領土と主権の完全性を尊重しなければならないことを断固主張し、世界の理解と賛同を得なければならない。世界の主流の価値観に順応し、大多数の国の支持と呼応を得てはじめて、中国は新世紀の指導者になることができるだろう。

 第五に、中国は仲裁者とルール制定者になり、積極的にグローバルガバナンスを主導することを学ばなければならない。いまはいかなるメカニズムも、人手も、経験もないので、現時点から考え、準備する必要がある。当面の情勢は中国にとって一つの契機であり、中国は世界の危機を中国の戦略的チャンスに変え、国際秩序を公正、合理的な方向に発展させ、グローバルガバナンスを積極的に主導しなければならない。

 以上のような考え方を、緊急報告書は提示している。

世界秩序の構築と維持を担う
大国になるには発展途上の中国

 これは直ちに中国政府の政策や立場を表すものではないが、中国の指導部に提案できる立場にいる一部の研究者の思考回路と観点をある程度、明らかにしたと理解していいだろう。特に戦争の調停役を務めることに研究や経験がなく、心構えもできていないというやや寒い事情が露呈している。

 大国と自負する中国が世界秩序の構築者と維持者でもある真の大国になるには、まだ学習途上にある。世界は、ロシア・ウクライナ戦争の終結に向け、中国がより「目立った役割」を担うことを期待している。それゆえ、その学習期間の短縮と行動の迅速化を中国に厳しく求めている。

 中国は、その期待に応える準備ができているのだろうか。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)