社会保険の加入が「なし」な理由は?

 次の日の朝、B社長から契約書を渡されたAは早速内容を確認した。4月からの勤務日は週5日で時給が200円アップ。そして気になる社会保険の加入欄に目を落とした。

「あれ?おかしいな。社会保険の加入は『なし』と書いてある」

 焦ったAは、「勤務日が増えたので、社会保険に入れると思うんですが?」とB社長に尋ねた。しかしB社長は驚いた顔をして言った。

「えっ?君はウチの従業員じゃないから、会社の社会保険には入れないよ」
「それってどういうことですか。私はここで雇われているバイトですよね?」
「違う。今君に渡した書類には『業務委託契約書』って書いてあるでしょ?この契約はフリーランス扱いだから、働く日にちや時間がいくら増えても、保険加入には関係ない」
「そんなの困ります。社会保険に入れてください。私は4月から週40時間働くのだから、入れるはずです」
「君には入社時に『業務委託契約書』を渡してサインとハンコを押してもらってある。だから労災や雇用保険にも入っていないし、所得税の申告だって支払調書を発行している」
「業務委託の説明なんか知りません。ただB社長に言われるままに名前を書いてハンコを押しただけです」

 二人はその後も互いに意見を譲らず、頭にきたB社長は「もういいから仕事に戻って。頭を冷やしてよく考えろ」とキレた。B社長の態度にすっかり気が動転したAは、契約書を握りしめたまま会社を飛び出した。