岸田内閣「5000円」臨時給付金が高齢者を愚弄する愚策な理由Photo:PIXTA

与党から中高所得層の年金受給者を対象にした5000円の一律給付案が出ている。選挙目当てのバラマキ政策であることは一目瞭然。かつ、高齢者を愚弄(ぐろう)するものであると言わざるを得ない。(昭和女子大学現代ビジネス研究所特命教授 八代尚宏)

公的年金の減額に対する
高齢者の反発を恐れる与党

 夏の参議院選挙を目指して、与党から新型コロナウイルス対策として2600万人の年金受給者を対象に、一律5000円を支給する案が出ている。予算総額の1300億円は、本来、災害対策等の予期しない経費を賄う予備費から支給される予定である。

 6年前の参院選でも低所得の年金受給者1100万人に3万円を支給したという実績があるが、今回は一層、選挙目当てのバラマキの要素が大きい。

 公的年金の支給額は、現役世代の名目賃金上昇率(賃金スライド)、物価上昇率(物価スライド)によって増減する。新しく年金を受給する人が受け取る額は、賃金上昇率、すでに受給している人の受け取る額は物価上昇率で改定される。

 ただ、これには例外があり、賃金上昇率が物価上昇率より低い場合には、新しく受け取る人もすでに受け取っている人も、現役世代との公平性確保のために、年金額は賃金増減率で改定される。2021年度、22年度ともに名目賃金上昇率がマイナスのため、2年連続で年金受給額が減少し、22年度は0.4%減額される。

 これまでも、年金額減少による年金受給者の反発を受けることを恐れて、それを相殺するような政治的介入が行われたが、今回の年金受給者への一律給付もその一環といえる。

 与党から見れば、投票率が20代の若者層の倍以上である60代の年金受給者にターゲットを絞ったこうした一律給付策はきわめて効率的な選挙対策といえる。

 しかし、肝心の高齢者層が、この5000円の給付を本当に歓迎するのだろうか。こうしたバラマキがいかに高齢者を愚弄しているかという点について、次ページから検証する。