昭夫の“クーデター宣言”を咎める武雄
弟は兄に面と向かって“宣戦布告”
2人のやり取りは、ロッテグループの後継問題にも及んでいく。2人が話し合う1週間ほど前、先の“査問会”に前後して、『中央日報』や「KBS」などの韓国を代表するメディアがこぞって「ワンロッテ・ワンリーダー」への転換を報じ始めていた。これは、昭夫本人もしくはその取り巻きが、よもや“査問会”で昭夫が糾弾されるとは思わず、有力メディアを集めては「昭夫こそがロッテの新しいリーダーであり、日韓のロッテは一体である」と、一方的な世襲の既成事実化を謀るべく喧伝していたからだろう。
だが、ロッテグループは、宏之が日本事業、昭夫が韓国事業を担う「ツーロッテ」であり、それを統括するリーダーは武雄である。昭夫が自称する「ワンロッテ・ワンリーダー」は宏之の日本事業を奪い、昭夫が武雄に取って代わるという「クーデター宣言」に他ならない。武雄に気付かれずに宏之を追放して半年がたち、後継者の座はもう手中にあると油断したのだろうか。後継者交代が行われたかのようにアピールする昭夫に武雄は激怒していた。(『ロッテを奪われた男・重光武雄 ロッテ重光武雄が激怒!クーデター画策の3人を「クビ宣告」で“瞬殺”』より)。
武雄 お前、マスコミに急に自分で全部やるようなこと言ってるのか。
昭夫 そんなこと。マスコミが勝手に書いちゃって、申し訳ありません。(ここで宏之が「(テレビ報道で)お父さんの指示だって出てるよ。テレビを見せようか」と反証を示そうとする)
昭夫 すいません、ええ。
武雄 新聞にはこういうこと言ってるわけ。
昭夫 ここの新聞には私、もう何年もインタビューを受けたことないんですけども。
武雄 自分で言っていなくても、他の者を使ってそんなことやっているから新聞に出ているんじゃないの。
昭夫 申し訳ありません。すいません。
武雄 馬鹿野郎! ロッテに出入り禁止にしないとな。
昭夫 はい。明日、あの、今からですか。
武雄 君、大体、黙ってこんなことやるなんてどういう意味だ。黙って投資をしてうまくいったら俺のものにしたいと、こういうわけか。
昭夫 そんなことありません。全部会社で投資しています。全部会社でやっていますので。
武雄 会社は俺のものだと言いたいんだろう。
昭夫 いや、そんなことはありません。
武雄の追求は容赦ない。昭夫の後継者の座に対する野心と陰謀を突く言葉をぶつけた。
武雄 お前、こういうことでロッテ全部を俺がやりたいと、後継者、こういうことをうまくやって全部取る、こういう関係なんだろ。
昭夫 そんなことは……、申し訳ございませんでした。
この日の話し合いは、まるで親子の別れの儀式のようである。ボイスレコーダーの録音を書き起こした「文字起こし」を読むと、父・武雄と、本来ならばスムーズに事業を承継できていたはずの兄弟・宏之と昭夫という3人の男たちの意地と本音が交錯している。中国事業の赤字については、武雄は激怒しつつも、経営者として事業戦略の拙さを指摘し、家産としてのロッテグループの行く末を案じる父親としての気持ちがまだ垣間見える。
だが、後継者問題に話が進むと、武雄から発せられたのは、もはや父から息子への言葉ではなく、オーナー経営者が商売敵の乗っ取り屋に向けて発する言葉である。かたや昭夫は、「申し訳ございませんでした」と謝罪の言葉を口にし、父への畏れを隠さない息子をしおらしく演じていたが、このあとすぐにロッテ乗っ取りへ牙を剥くのである。2人の話し合いに同席していた宏之は、平行線を辿る2人のやりとりをただ見守るしかなかった。親子としても、経営者としても、父に見放されていく弟の姿はどう映ったのだろうか。この話し合いの後、宏之は昭夫と別室で1時間ほど話し合ったが、もはや通じ合うものは何もなかった。宏之は昭夫に言われたこの言葉が今も忘れられないという。
「兄貴と私と、どっちかが倒れるまで闘うんだ」
それまでは、佃や小林の陰に隠れて宏之追い落としに協力していた昭夫が(前回の繰り返しになるが、佃、小林、昭夫の3人は裁判で一貫して共謀の事実を否定している)、初めて兄に面と向かって発した宣戦布告だった。