「自分ごと感」がある人だけが、成長できる

伊賀 サラリーマンだと、人生の選択がないまま40歳、50歳になる人もいます。
 一方、アスリートの方々は、進学するのか、それともプロ宣言するのかなど、若くから自分ごととして自分の人生を決めてこられた、コントロールしてこられた方が多いと思います。
『走りながら考える』を読むと、「自分の人生を自分で決めていかないと」という強い思いが伝わってきました。

為末 「自分ごと感」っていうのはとても大切だと思います。
  それを意識しているかどうかって、高校生アスリートのインタビューを見ていてもわかることがあるんです。

伊賀 インタビューでわかるんですか?

為末 はい。もし僕が大学の陸上部のコーチだとします。で、高校生を見てメンバーを自由に決められるとすると、能力的なところが半分、もう半分はインタビューを見て、その人となりで決めますね。インタビューでポテンシャルがわかると思います。
やっぱり教科書のまま生きているというような子は、どうしても伸びにくい。自分が考えていないってことにすら、気づいていないですね。決めた風でいて実際には「決めていないことにも気づいていない」ってことです。

伊賀 本来の自分の意見ではないのに、周りから言われていることを「自分の意見だ」と信じて疑わない人がいるってことですよね。

為末 そうです。それよりも、話をしていて、ずれてても良いので、なんとなく「動いてる感」がある子のほうが、ポテンシャルを感じますね。
自分の中で考えている子、止まっていないという感じの子は伸びしろがあります。

伊賀その時点で持ってる能力だけでは決めないんですね。採用と全く同じです。
私も学生の採用面接では、「自分で考えて決めたことがあるか」という質問をします。
一見優秀でも、この質問で詰まってしまう学生も多いんです。今までの人生で、自分で決めたことが何もないって、その時点で初めて気がつく人もいるくらいです。
自分の選んだ道に自信を持っていられれば、極論すれば合ってるか間違ってるかは関係ありません。
結果にかかわらず、自分で考えて決めた経験があるのは重要だと思います。