欲しい食品は納豆、マヨネーズ、ポン酢、菓子

 領事館には、日本人在住者からの生活上の切実な声が寄せられている。館員も在宅勤務であり、現場対応ができない状況ながらも、電話を24時間受け付けるなど、緊急支援体制を敷いている。

 他方、領事館は、マンションごとに組まれている日本人のグループチャットの代表者と連絡を取り合うなどの方法で、支援の提供を告知しているようだ。4月第2週、あるグループチャットに「浦東新区については住宅への支援を行い、浦西では困窮者への個別サポートを行っている」という領事館からのアナウンスが転送された。

 浦東はロックダウン前から隔離されている住宅地が多いという理由で、領事館はマンションごとの対応を行っていることがうかがえる。その一方で、浦東の一部居住者はその支援のあり方に疑問を持っていた。

 ことの発端はBマンションで行われた日本人居住者の署名を集めた領事館への陳情書である。そこには、食料品が不足していることが切々と書かれていた。

 Bマンションは陳情書を送るに当たって、各家庭が必要とする食料品や日用品について事前にアンケートを行った。Bマンションに住む日本人駐在員のCさんは、このアンケート結果を筆者にシェアしてくれた。アンケート結果を見ると、コメ・みそ・しょうゆ・砂糖を必要としている世帯が多いことがわかる。トイレットペーパーを欲しがっている家庭も多い。その一方で、ポン酢、マヨネーズ、納豆、菓子という回答も多かった。

 アンケートから伝わってくるのは「日本のものが食べたい」という強い要望だ。要望を出したBマンションには、領事館からの手配による食料品が届き、その販売が行われた。このマンションにはマヨネーズ、ポン酢、ポテトチップスなどの菓子をはじめとする日本の食品のほか、立て続けにコメや飲用水、納豆、塩、砂糖が届いたという。

 領事館は陳情を受けて、食料品の手配に動き、日系の食品メーカーや流通小売企業に食品の提供を願い出ると同時に、郊外の農家を使って食品の配達をアレンジしたもようだ。

 浦西で物流会社を経営する中国人は「農家の取り扱い商品である野菜と肉以外に、日本人の要望のあった日系各社の商品を『通行許可証』を持つ農家のトラックに混載したようだ」と話す。他方、「『通行許可証』と『PCR検査合格』の二つを満たすドライバーが激減しており、運賃も急上昇だ」とも言う。上海では物流インフラがさまざまな制限を受けており、必要最低限の物資を配送するのさえ容易ではない状況に置かれていた。

 一方で、日本人コミュニティーでは微妙なアンバランスが生じていた。同じ浦東でも陳情書を出しても水とコメだけしか届かないマンションや、何も届いていないマンションもあった。何も届かないマンションの中には、領事館のサポートを得ずして、自力で解決に乗り出すところもあった。

 誰もが十分な食料品に恵まれない中で、同じ浦東でも納豆や菓子まで届いたマンションがあることに、心穏やかでいられない人たちもいたのである。