ちなみに、上海市が行う食料品の配給については前述したが、これには「1世帯に1箱であるため、家族が多い場合は十分な量とはいえない」「日本人がめったに買わない野菜や魚が入っていて調理に苦労する」などの不満も見受けられた。

 それでも、レシピを工夫しながらなんとか今の状況を切り抜けようとする人たちもいた。インスタグラムなどのSNSからは、日本からの駐在員とその家族たちのたくましさの一面をうかがい知ることができる。

領事館は“何でも屋”とは違う

 そもそも、在留の日本人と領事館の間には距離があった。

「決して親身だとは言えない」という声は以前からあり、領事館の対応の是非についてさまざまな意見があった。過去の経緯からすれば今回のサポートは、全ての日本人に及ばないとはいえ、領事館の変化の一端を表すものともいえるだろう。

 他方、「領事館は“何でも屋”とは違う」とする見方も存在し、領事館が食料品を直接手配する「サポートのあり方」に“やり過ぎ”だと感じる人もいた。「うちは大丈夫なので、領事館は本当に困っている人を助けてあげてほしい」という声もあった。

 上海には、日本から戻ってきたばかりで、隔離ホテルから自宅に直行せざるを得なくなった人もいるという。その場合、当然のことながら自宅には十分な食べ物はない。郊外の工場に住んでいる日本人の中には、完全な孤立状態に置かれた人もいるという。中国語ができない上、小規模マンションに住んでいる人は、「団購」にも参加できないともいわれている。

 筆者は、領事館に状況を確認するため連絡しているが、原稿締切日までに折り返しの電話はなかった。以前中国で総領事を務めた外務省OBに意見を求めたところ、「役所はまず公平性を考える」というコメントが返ってきた。他方、「この原則に固執すれば、『役所は何もしない』ことにもなりかねないので難しい問題だ」とも語っていた。

 砂糖や塩で困っている日本人がいながら、特定のマンションに運び込まれた“納豆やポテトチップス”は小さな波紋を呼んだ。上海ではロックダウンという誰もが経験したことのない非常事態の中で、今なお多くの日本人が不自由で不安な生活を送っている。