間違いを修正できない!身動きが取れなくなった中国

 この連載で主張してきた、ロシアや中国のような「権威主義的体制」の弱点を端的に示している(第220回)。権威主義的体制は、指導者は絶対に間違うことがないという「無謬(むびゅう)性」を前提としている。指導者は常に正しく、常に勝利し国民を導いていく。これが、指導者の「権威」と「権力」の基盤である。

 だから、権威主義的体制では、自由民主主義体制では当たり前に行われる、国民の声を聴いて妥協し、政策を修正するということは、それ自体が権威を揺るがすことになるため絶対に認められないのだ。

中国のゼロコロナ固執で露呈した、「習近平国家主席は絶対正しい」の限界本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 そして、重要なことは、うまくいかなくなったら、うそを重ねて権威を守ろうとする。これは、「ゼロコロナ」政策に固執する、現在の中国の状況に完全に当てはまるのではないだろうか。

 中国は、迅速な意思決定が可能であるとして権威主義的体制の優位性を主張してきた。だが、その主張は間違っている。実際には、政策の修正が必要な局面になると、とたんに非効率的となる。必要な決断を遅らせる、コストの高いものであることが明白だ。

 権威主義的体制では、指導者の政策の間違いを正すには、政権を倒す体制変革、最悪の場合武力による革命が必要になる。重要なことは、そのとき、多くの人々の生活や生命が犠牲になってしまうことなのだ。

 欧米や日本の自由民主主義体制ならば、指導者の政策の間違いを修正するのは、それほど難しいものではない。基本的に情報がオープンであることを通じて国民は指導者の間違いを知ることができるからだ。

 そして、間違いは選挙を通じてやり直すことができる。それが、一見地味ではあるが、自由民主主義にあって他の政治体制にはない最大のメリットであると、何度でも強調しておきたい。

 現在、ウクライナ侵攻の停戦協議が進まず泥沼化している。それは、突き詰めればロシア・プーチン大統領が「戦争遂行に失敗した」という形では、戦争を終えられないからだ。失敗を認めることは、プーチン政権の権威と正統性を失わせることになるのだ(第299回)。

 中国の新型コロナ対策も、習主席の「ゼロコロナ」政策が誤っていたという形には絶対にできない。だから、「ゼロコロナ」政策が正しかったという形を作るまで、政策を転換することができない。中国は、習主席の無謬性という「権威」を守るために、政策を変えることができず、身動きが取れなくなってしまっているということなのだ。