人事の重要な仕事として、従業員が持つ潜在的な能力を最大限に発揮できるようにサポートするということがある。いわゆる人材育成・能力開発である。昨今はポジティブな心構えを推奨する風潮があるが、今回はその危うさについて見ていきたい。特に着目したいのは、成果を出しているのに自信が持てず、ポジティブになりきれない人物だ。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)
非現実的楽観主義と防衛的悲観主義
「ポジティブになろう」といった声をよく耳にするが、誰に対してもそんな声がけをしていいものだろうか。
例えば、何かにつけて「任せてください」「大丈夫です!」とポジティブな反応をする人物ほど、仕事上のミスが多かったり、仕事が雑だったりして困るというのは、多くの管理職や人事担当者が経験しているのではないだろうか。
ここで、ぜひ知ってほしいのが、「防衛的悲観主義」という心理学の概念である。
心理学者のノレムとキャンターは、過去のパフォーマンスについての認知と将来のパフォーマンスに対する期待を組み合わせて、楽観主義・悲観主義に関して四つのタイプに分けている。ここでは、そのうちの「非現実的楽観主義」と「防衛的悲観主義」を取り上げることにしたい。
非現実的楽観主義とは、これまで実績がないのに、将来のパフォーマンスに対してはポジティブな期待を持つ心理傾向を指す。防衛的悲観主義とは、これまで実績があるにもかかわらず、将来のパフォーマンスに対してはネガティブな期待を持つ心理傾向を指す。