先延ばしはまた、自分自身への信頼の低さ――「自分は有能ではない」と思うことにもつながります。元テニスコーチで作家のティム・ガルウェイは、世界一流のテニスプレイヤーたちと働いた経験から、人間のパフォーマンス(どれほどのことを成し遂げられるか)は、その人本来の能力から、ネガティブな思考や自己制限的な思い込みなどによる「妨害」を差し引いたものになる、と主張しています。

 これを簡単な式で表してみましょう。

 パフォーマンス=潜在能力-妨害

 人はだれしも、自覚している以上の潜在能力を備えていますが、ネガティブな思考が絶えずその邪魔をしています。「自分にはできない」「その仕事を得るのは無理だ」などと考えることにより、みずからの成長を妨げています。

 この思考はとても強力なので、その人のやる気をくじくのはおろか、日々のパフォーマンスにも影響を及ぼします。逆にいえば、こうしたネガティブな思考の妨害を最小限に抑えられたら、やる気や潜在能力をフルに発揮できる可能性もあるのです。

「明日になればやる気になる」は迷信?

「明日になればもっとやる気になる」。これは先延ばしにまつわる、とりわけ根拠の薄い迷信です。

 わたしたちは、「そんなことを期待しても無駄だ」と経験から繰り返し学んでいるにもかかわらず、あとになればもっとやる気が湧いてくると思いがちです。なぜでしょうか?それは、心がわたしたちに錯覚を起こさせるからです。

 人はふつう、自分の感情は自分自身がいちばんよくわかっていると思い込んでいます。

 そして「(今は無理でも)あとになればやる気になるはず」と、根拠のない期待を抱きます。ところが実際には、「あと」になったから意欲が増す、といったことは起きません。やる気の量は以前と変わらないままです。

 人間の心にこうした――未来の気分を予測するのが苦手という――弱点があるとわかったら、何かをやり始めるのはむしろ楽になります。なぜなら「知識は力」だから。あと回しにしたところで、やる気は増えないし、気分も楽にならないとわかったら、今すぐに始められます。「下手でも」やることができるのです。