やる気を引き出すためのメソッド1:完璧を目指さない

 先延ばしの研究を深掘りするうち、わたしはやる気を引き出すための、とっておきの秘策を発見しました。その秘策こそが「下手にやる」、すなわち、下手でもいいからとりあえずやってみることです。

 気が乗らない仕事が目の前にあり、まったくやる気が湧かなくても、ダメもとでとにかくやる。ストレスの多いプロジェクトを抱えていたら、取りかかるのに最良のタイミングや場所が見つかるまで待ったりせず、今すぐに始める。

「いい仕事をしよう」とか「完璧にしなければ」と気負わなくて大丈夫です。下手でもいいから始めるとき、あなたは最初の一歩を踏み出しただけでなく、達成というゴールに向かってもいます。イライラはワクワクに、後ろ向きの気分は前向きに変わります。

 このモットーを取り入れた人たちは、自分に自信がついて気持ちが明るくなった、とわたしに話してくれます。やるべきことを避けるのではなく、やり遂げられるようになったと。なかでもよく聞くのは、「下手にやる」くらいの心持ちで十分だった、という言葉です。それどころか、深く考えずに急いでやったほうが、むしろうまくできたというのです!

 イギリスの作家で詩人のG・K・チェスタトンは、かつてこう言いました。「やる価値のあることなら、最初は下手でもやってみる価値がある」。だから、今、とにかく始めましょう。磨きをかけるのはあとでいつでもできます。

 2020年の8月、わたしのもとに1通のメールが届きました。差出人はベンという男性で、わたしの過去の講演を聞いて「下手にやる」方法を試してみた、とのことでした。

 ベンはこれまで新たなチャンスがめぐってくるたび、「地球上で自分ほど時間を浪費している人間はいないんじゃないか、というほど悩みに悩み、ほとんど動けなくなって」いました。ところが、講演を聞いて下手でも気にせずやってみたところ、不安が嘘のように消えたといいます。

「自己啓発書やセルフトーク改善などのワークに何千時間投じても得られなかったことを、この言葉は授けてくれました。“失敗の先に成功がある”と言われてはその手の本を読み、エゴや恐れや不安を“克服できる”とされる、あらゆるメソッドも試してきました。でも、あなたが話していたあの言葉だけが、僕の心に響いたのです」