「『させていただく』は『させて』で許可をもらい、『いただく』で恩恵を受けることを示す敬語です。『ご説明させていただく』といった具合に、本来であれば、許可や恩恵を受ける相手が必要な言葉ですが、現在は許可を得る他者がいなくても使われるようになっています。私が気に入っている例としては、タレントのおのののかさんがサウナの感想として発した『しっかり整わせていただいた』というフレーズです。整う(くつろぐ)ことは本来人から許可をもらう行為ではありません。にもかかわらず、『させていただいた』を使っているのがおもしろいですよね。自分の丁寧さを示す、新しくてかわいい使い方です」

 椎名氏の調査によると、このように許可をもらう他者が不在な「させていただく」に、違和感を覚える人が多いのだという。

「とある講演会の受付で『受講票を確認させていただきます』と言われた年配の男性が強い違和感を訴えたことがあります。男性の考えでは『私には許可を与える権威がないのに、そんな言い方をするのはおかしい、失礼だ』ということでした。私が行った調査によると、『させていただく』の正しい用法にさえ、30~50代の中年層は、全年齢層で最も高い違和感を示していました。この層は現役世代なので、言葉遣いに敏感なのだと思われます。逆に、20代の人たちは、生まれた頃から『させていただく』が使われておりいわば『させていただく』のネーティブなので、違和感は全体的に低めで、斬新な使い方をします」