コロナ対応現場の最前線で命と向き合う救急科専門医・集中治療専門医の筆者が、今注目している論文がある。まだ査読前で正式な論文とはいえないが、中身は「オミクロン株は弱毒化していない」というショッキングなものだ。論文の著者はハーバード大学とその関連医療グループに所属する研究者らで、研究方法はユニークでそれなりの説得力もある。仮にこの内容が正しい場合、日本ではどんな対策が求められるのか。(名古屋大学大学院医学系研究科救急集中治療医学分野医局長、集中治療専門医、救急科専門医 山本尚範)
オミクロン株は「弱毒化していない」?
要注目の査読前論文とは
2019年12月に武漢で発生し、瞬く間に世界中に感染が拡大した新型コロナウイルス。私たちは2年半近く、外食や旅行を控えるなど多くの我慢を強いられてきた。
だが昨今は、変異株の一種である「オミクロン株」が弱毒化したという見方が広まっている。この説を受けて、「いつになったらマスクを外せるのか」「弱毒化したのだから、そろそろコロナ以前の生活に戻してほしい」という切実な声が聞かれるようになった。
しかし、人々を安心させている「オミクロン株弱毒化説」は、実は誤りかもしれない。
というのも、「オミクロン株は、実は弱毒化していないのではないか」という趣旨の論文(1)を、ハーバード大学とその関連医療グループ(外来施設やリハビリ施設なども含む)に所属する研究者らが5月2日に公表した。ただし、査読前で正式な論文ではないため、論文の内容が見直される可能性はある。
それによれば、オミクロン株の入院や死亡のリスクは、昨年秋にインドで出現した「デルタ株」と変わらないという。
今回の「ハーバード論文」は、デルタ株とオミクロン株の毒性を比較したものだが、何がこれまでの論文と違うのか。