提言は全10項目から成り、財政政策の観点から現在必要であると考えられる内容がおおむね網羅されているといえる。

 同提言では、冒頭の前文で、「我が国経済は、依然としてデフレから完全に脱却するには至っていない」と現状認識を述べた上で、「我々の使命は、デフレ完全脱却を実現すべく、確固たるマクロ経済政策の方策を打ち出すことである。そのためには、大胆な金融緩和に加え、積極的な財政政策を果敢に行うことを車の両輪」とすることが必要であるとする。そして、それこそが「岸田政権の掲げた『成長と分配の好循環』の実現につながる本来あるべき『新しい資本主義』の形である」としている。

 岸田政権の掲げる「新しい資本主義」とは、岸田首相が、原丈人氏(アライアンス・フォーラム財団代表理事、元内閣府参与)の公益資本主義に共鳴して打ち出したものであるが、新しい資本主義実現会議の議論などを見ていると、公益資本主義とは真逆の方向に行っているようにしか見えない。「成長と分配の好循環」にしても、その具体的な方法、真に機能する具体的方法は見えないままである。そうした中で、同提言は、「新しい資本主義」を、本来あるべき軌道・方向性で走らせようというものであるといえよう。以下、個別の項目について概観していく。

 まず、第1項目では、「実態経済へのマネーの供給を十分に行うため、『カレンダーベースでのPB黒字化目標』は置かず、積極的な財政運営を図ること」とし、財務省がこだわり続けるPB黒字化目標について、これを撤廃する必要はないものの、カレンダーベース、つまり「○○年までに」という目標の設け方をやめることを提言している。これは、PB黒字化目標の撤廃というと、財務省のみならず自民党内の緊縮財政派からも強い反発が起きて、そこで党内の議論が膠着(こうちゃく)して、提言が画餅に終わってしまいかねないことによるものだろう。

 そもそも、PB黒字化目標などという財政規律を設けている国は日本だけであり、しかも最初に盛り込まれたのは2001(平成13)年の小泉政権下だ。それがいつの間にか堅持すべきものとされてしまうに至ったものであるから、早々に撤廃してしまうというのが本来あるべき方向性であるが、提言を実現に近づけるために現実的な解を採ったということだろう。

 実際、同議連の設立総会において、特別講演を行った安倍元首相はPB黒字化目標を置くべきではないと述べている。

 そして、「これまで行ってきた『経済、財政の一体改革』の方針を見直し、まずは不況から脱出することを最優先とし、経済を成長軌道に乗せることに全力をあげること」と、不況から脱して成長軌道に戻るまでの間の財政再建の棚上げを提言している。