盛り込まれなかった「新自由主義からの転換」
今後、議論は進むのか

 そして、第9項目においては、「民間企業の賃上げの要請にとどまらず、公務員の採用増や給与の引上げ、公定価格の更なる引上げを、諸外国と比べても遜色ないような形で果敢に行い、官民ともに賃金が上がる環境を作ること」と、賃上げについて公的な歳出拡大を通じて取り組むべきことが提言されている。確かに、公務員給与などの増額は、着実に需要を生み出し、それが民間企業における賃金の上昇にもつながり得ることは明らかである。

 しかし、この数十年の実質賃金の低下の大きな原因の一つは、短期での株主への配当を重視し、そのためなら人件費削減も、研究開発投資・設備投資の削減もいとわない株主資本主義であり、それが正規から非正規への置き換えの増加にもつながっている。この是正を行わない限り、本質的な意味での賃金上昇を実現することは困難であろう。

 おそらく、本提言は、まずは大幅な歳出拡大を実現すべく、財政政策に関する部分に的を絞った内容とし、経済政策に関する事項、特に構造改革の修正、まさに新自由主義からの転換に関する事項は今回の提言には盛り込まないこととしたと考えられる。今後の同議連の活動中で、国の財政支出を有意味なもの、有効なものとするため、新自由主義からの転換に関する事項についての議論、そして提言の取りまとめも望まれよう。

 最後の第10項目においては、「機動的な財政を可能にする、より柔軟な財政規律へと変革」することを述べるとともに、「税収中立の考え方を脱して減税を政策手段に加えること」も提言している。わが国が置かれた状況に応じて財政や税を柔軟に活用すべきことを提言したものであり、政府の硬直的な財政政策、税制の姿勢に大きく切り込むものであるといえる。

 以上、同提言について概観してきたが、同提言についての報道は、小さな記事でいくつかのメディアで触れている程度で、これだけ重要な内容について網羅的に解説したものは、筆者の確認した限りにおいては見られなかった。同提言の実現のみならず、同提言をたたき台にした議論を喚起するためにも、より多くの方に知っていただきたいところである。