しかし、ユーティリティーに使おうと思うと、このままのビットコインでは効率も悪く無理なので、ビットコイン自体を変えていかないとダメだった。しかし、変えていくとするとハックされるリスクもある。ビットコインは、14〜15年間ハックされなかったことこそが変わらない価値だった。

 だから、やるべきか否かでコミュニティーが完全に対立して、そのときにフォークしたんです。

入山 なるほど。

國光 フォークさせた上でビットコインとビットコインキャッシュに分かれたんですけど、それぞれが互いの信念におもむくままやった結果、よりいいものになったほうが主流になり、よくなかったほうが消えていった。

尾原 結局、ゴールド側が勝って通貨側が弱くなっていったんですね。

國光 それぞれが、それぞれのビジョンどおりにやって、よりいいことをやったほうが主流になって、そうじゃないところが消えていく。そういうイメージですね。

DAOと経営学の意外な共通点とは?

入山 興味深いですね。僕は著書『世界標準の経営理論』の中で、個人と組織の新しいかたちを提示した「ティール組織」の世界観は、これからの未来にありえると書いていました。

 ティール組織は組織を生命体として捉えるという考え方なんですが、DAOに似てますよね。種として分裂をし、進化する方が生き残っていくように、「組織が生物的になっていく」イメージですね。

尾原 中央集権でやるケースもあるけれども、うまくいかない場合はフォークすればいいじゃないか、と生命が分裂していくみたいに意思決定の仕組みそのものが進化、淘汰を簡単にできるようになる世界というのがティールに合いやすい。

入山 この世界では、人類が400年間使っていた株式会社という仕組みをある意味で根底から変えるので、めちゃめちゃおもしろいですよね。400年越しの大革命ですよ。 

國光 一方で、人は性善説では動きません。みんなが自分の利益のために動くことがひとつの自律型組織のベースだと思っています。

 たとえば、私が投資しているTHETA(シータ)という動画配信のP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワークを提供する会社では、ネットワークに参加すると報酬としてトークンが得られるようになっています。

 THETAは、VR版の動画投稿やeスポーツ配信プラットフォームを、クラウドサービスをベースに実現しているのですが、将来、4K/8Kといったように動画の解像度が上がり、さらにフルVRになったら、いまの100倍もの通信容量が必要になります。その対策として考えたのが、一般ユーザーのパソコンやスマートフォンの空いている通信帯域を共有して大量のデータをやりとりするP2Pネットワークです。

 でも、誰も無償では他人にネットワークを貸したがらないものです。そこでTHETAでは、ネットワークに参加するとビットコインのマイニングと同じように、トークンがもらえるといったインセンティブを付けることで自律性を確保しています。

尾原 勝手にトークンがチャリンチャリン入ってくるとなると、つなぎっぱなしのほうが得だと感じますよね。

國光 ビットコインのマイニングも一緒だと思っています。みんな「新しい時代の通貨をつくる」とか、そんな大きなこと考えていないんですよ。ビットコインが欲しいだけで、自分の利益のためだけに動いた結果ネットワークが回っている。

 ここが、サトシ・ナカモト(ビットコインの創始者とされる人物)の悪魔的なところです。