ビジネスと社会貢献の両立に必要なこととは?

入山 僕はいま、北海道の生活協同組合「コープさっぽろ」の理事をやっているんですね。理事長である大見英明(おおみひであき)さんがトップで、大見さんは経営者としてもたいへん素晴らしいので、今はとても成功しています。そして、興味深いのは生協の仕組みです。

“生協”は組合組織です。組合員が出資者となりますから、いわゆる株式会社ではないんです。株主もいません。

 株式会社って、「株主」と「顧客」が違いますよね? そして株主は、株価を上げてほしいから企業に成長を求めるけれども、一方で顧客のためにもいいことをやらないといけない、というのが株式会社の難しいところです。

 しかし、生協はそのコンフリクトがないんです。「出資者=顧客」なので、そういう意味ではちょっとDAOに近いと思います。

尾原 難しい点はないのですか?

入山「出資者=顧客」に生協の経営をモニタリングするインセンティブが弱いため、ガバナンスが効きづらい点ですね。とはいえ、北欧などヨーロッパの多くの国の小売りでは、かなりの部分が実は生協なんです。

國光 そうなんですね。

入山 日本が今後お手本にしたいといわれているフィンランドやデンマーク、スウェーデンなど北欧経済圏の小売業は、かなりの部分が生協です。だから、本当に日本が北欧を目指すなら、「生協を増やそう」というのが僕の主張なんです。

 もうひとつ生協の難しい点は、ある意味で性善説で成り立っているところです。

 例えば生協の理事って報酬があるものの、報酬委員会はないから株主が監視せず、理事たちの自制心で給料を抑えている。社員の平均給料の6倍を超えてはいけない、といった暗黙のルールが北欧の生協にあることはあります。それで無理やり抑えている。ただ、根底にあるのは人間の善意なので、いわゆる「民度」が上がらないと生協モデルの普及は無理、というのが僕の理解です。

尾原 北欧で生協が成り立つのは、民度が高いからなんですね。

入山 人間は欲もあるのでみんなが自制できるわけではないですし、自制できないところで、当然対価が欲しくなるものです。他方で、今日の國光さんと尾原さんの話を聞いていると、DAOの仕組みはうまくやると、その両方が取れるんだなと。

國光 アメリカやドイツ、フランスでも生協は成立していないんですか?

入山 アメリカは成立していないですね。ドイツはちょっとあったと思いますけど。基本はフィンラインド、デンマーク、スウェーデン、スイスあたり。

國光 やはり福祉国家を延々とやってきた中での、民度の積み上げがあったということですよね。

入山 だからDAOはいい意味での民主化的なものをやりつつ、インセンティブをみんなに幅広く与えることが可能になる。コミュニティーを作れてみんながハッピーで、お金の面でも得をする世界というところが、すごくおもしろいですよね。