インベスターZで学ぶ経済教室『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第126回は、不動産購入や引っ越し時のチェックポイントを伝授する。

正気かよ…あるファンドマネジャーの教え

 藤田家の御曹司・慎司は東京の中で「次に来る町」は足立区・綾瀬だと予感する。だが、実際に現地に足を運んで街並みを見て、思い描いたような大規模な再開発には向かないと知る。失望しつつ町を歩いていた慎司は偶然、小さな工房を見つける。

「不動産は目で見て肌で感じなければ何もわからない」。慎司は作中で、東京タワーからの眺望と古地図をもとに目星をつけた自分の考えが安易だったと気づく。不動産の情報は「足で稼ぐ」が基本なのは、今も昔も変わらない。

 物件とその近辺を歩いてみるのは基本中の基本で、できれば最寄り駅までの道の「朝昼晩の顔」を見てみることをオススメする。

 この心得を私はあるファンドマネジャーから学んだ。REITに投資するファンドの運用責任者の元信託銀行マンは、「足で稼ぐ」の権化のような人だった。ファンドが投資しているREITに組み込まれた主要物件のほとんどに足を運び、自分の目で物件を確認していたのだ。

 投資対象は数千単位だから、正気の沙汰ではない。不動産が好きで仕方がないからできる芸当だったのだろう。そのファンドマネジャー氏は、朝と晩のヒトの流れを実際に目で見るのが住みやすさや町の活気を感じる最良の手段であり、資産価値の持続性を判断する手掛かりになると語っていた。

転勤や下宿探しのお役立ちツールとは?

漫画インベスターZ 15巻P29『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 実際にやってみると分かるが、通勤時の駅の混雑や平日の昼間の様子、夜の駅前の帰り道の治安など時間帯によって町の顔は変わる。私自身、十数年前に都内で不動産を物色していたとき、ある町が候補に挙がったものの、夜の駅前の荒れ具合を見て「ここはない」とリストから落としたことがあった。

 その後買った中古マンションは、その近所に賃貸で2年ほど住む間に見つけた物件だった。当時は買い物や外食、子どもと公園に遊びに行くときなど、出かける際にはついでに「ここは『買い』か?」という目で町を見ていた。

 気になった地域は、時間ができた時に自転車でグルグルと周囲を回ってみたりもした。じっくりと「足で稼ぐ」を積み重ねた結果、このエリアから良い出物があったら、と狙っていた中古物件を無事入手できた。

 転勤や下宿探しなど、そこまで時間をかけられないときに頼りになるのがGoogleストリートビューだ。私は海外旅行の宿はAirbnbで探すことが多い。宿周辺の雰囲気、特に治安の良し悪しを類推するときにはストリートビューはかなり役に立つ。

 たとえば家族でギリシャに旅行に行ったとき。最初に選んだ宿は中心街からも近く、部屋内部の写真は申し分なかった。だが、建物の周囲をストリートビューで「歩いて」みたら、寂れたシャッター街で壁や建物はグラフィティだらけ。不安を感じて、少し割高だった別のエリアの部屋に変更した。

 現地に行ってみると、やはり最初の部屋の地域はかなり治安が悪そうだった。アムステルダムに行った際も、良さそうに見えた宿の周辺をストリートビューで確認したら倉庫街のど真ん中だった、というケースがあった。

 不動産購入は極めて重要な人生のイベントだ。ほとんどの人にとっては人生最大の買い物だろう。賃貸派だったとしても、「どこに住むか」は生活の質と人生のコースに大きく影響する。悔いのない選択をするために手間暇を惜しむべきではない。

漫画インベスターZ 15巻P30『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 15巻P31『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク