「あなたの職場では、タスクやアイデアを安心して忘れることができますか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「記憶する努力をしている職場」の問題点について指摘します。
気合いで忘れないようにする組織
日々の仕事の細かなタスクや作業、あるいは突然ふっと湧いて出たアイデア。あなたは確実に実行できているだろうか。
人は忘れる生き物である。どんなに記憶力がよい人でも、突然の割り込み、たとえば「ちょっといい?」と話しかけられたり、電話が鳴ったりして、取りかかろうと思っていたタスクやアイデアを忘れてしまうことはある。あるいは時が経てば経つほど記憶が風化し、悪気なくやり忘れることもある。
そんなとき、あなたの組織では、こう注意されていないだろうか。
「なんで忘れたんだ!」
そして、こう返していないだろうか。
「次から気をつけます!」
だが本人の気合い・根性に原因や改善策を求めるのは賢明とは言えない。人は忘れる生き物だからだ。これでは同じミスを何度も繰り返してしまう。
組織の生産性は上がらないし、叱責を恐れて「忘れたことによるミス」を隠蔽する体質が醸成されかねない。
安心して忘れられる仕組みと仕掛けをつくる
無駄な仕事と同様に、無駄な努力もなくしていきたい。
日常的に発生するタスクや発想を忘れないように個人が頑張るのではなく、むしろ安心して忘れられる環境を創ろう。ズバリ、仕組みと役割で解決する。
たとえば、新たなタスクが発生した(または思いついた)瞬間、本人がチーム共通のグループチャット(のその案件のチャンネル)にそのタスクを書き込む。
その際、「備忘メモ」「個人タスク」などの一言を添えるとよい。こうすれば本人がそのチャットの画面を見るたびに気づくことができる。本人以外のチームメンバーが気づいて、「このタスク完了していますか?」などと、さりげなくリマインドすることもできる。
本人が突然休まなければならなくなった際の、誰かへの引継ぎや依頼もしやすくなる。ここを見れば、タスクがわかる状態になっているからだ。
タスク管理なる役割を設定する
役割分担によって、安心して忘れられる環境を創る方法もある。
たとえばチームの誰かにタスク管理担当者の役割を担ってもらう。
チームミーティングなどで、メンバーの誰かが口頭またはチャットやメールなどの書き文字で発したタスクやアイデアを、タスク管理担当者がタスク一覧表に書き留め、チーム全員または本人にリマインドする。こうすればチームのメンバーは安心して発想でき、なおかつ安心して忘れて目の前の仕事に集中できる。
筆者が代表を務める会社、あまねキャリアでも、タスク管理役のメンバーにタスク管理とリマインドをお願いし、幹部やメンバーが目の前の仕事や、中長期を見据えた発想や対話に集中できるようにしている。筆者自身、経営をしつつ作家活動ができているのは、メンバーがタスク管理をしてくれているからである。おかげで日々の雑多な仕事をいったん忘れ、原稿執筆に集中できている。感謝しかない(かつては自分一人ですべてこなしていたが、今思えば本当にしんどかった)。
もちろんさらに一歩進めて、AIなどを駆使してチャットでのメモ書きや口頭での発信をタスク一覧やスケジューラーに登録し、自動でリマインドする仕組みを構築する手もあるだろう。そうすればタスク管理担当者を置かなくても回るようになる。
人は忘れる生き物である。それは人間の弱みでもある。人間ゆえの弱みに向き合い、気合いと根性と属人性ではなく、仕組みや仕掛けで解決することも、マネジメントの一つだ。あなたの組織はマネジメントができているだろうか。
タスク管理役の人への感謝と評価は忘れずに
個人の気合い・根性・記憶力によって苦労してタスクやアイデアを覚えておく必要はない。
チームで覚えておいて、チームでリマインドできるようにする。あなたも周りの人たちも、タスクやアイデアを思いついた瞬間に吐き出し、安心して忘れられる。その結果、他の作業や思考に集中できる。精神衛生上もよい。チームとしても個人としてもヘルシーである。
ただし誰かにタスク管理役をお願いする場合、その人への感謝と評価を忘れてはならない。
「いつもリマインドしてくれて助かります!」
「タスクを管理してくれるおかげで、安心して仕事に集中できます!」
タスク管理の役割と成果を正しく評価しよう。タスク管理とリマインドを、名もなきボランティア活動にしてはうまくはいかない。安心して忘れられることへの感謝の言葉をかけ続けることから、タスク管理の重要性の認知が高まり、それらの仕事を評価する世論と合意形成が生まれやすくなる。
・タスクやアイデアをテキストで残す慣習をつくる
・タスク管理担当者を置き、マネジメントしてもらう
・チームでリマインドし合えるようにする
(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。