たとえば、エスカレーターやエレベーターの故障などで緊急停止が発生した際は、速やかに利用者の安全確保に向かわなければなりません。ケガ人が出れば救急車の手配も必要です。警報の中でも、最大級に「ヤバイ警報」は火災警報です。これが発生すると、仮眠中でもたたき起こされ、複数人で現場に駆けつけます。

 本物の火災に遭遇したことはありませんが、テナント内での焼き肉パーティーが原因で火災警報が鳴ったことがありました。焼き肉を食べていたビジネスエリートたちが、消火器を持っている私を見て笑っていたのをよく覚えています。
 
 エリートたちは気楽なものですが、常に「警報が鳴るかもしれない」という緊張感にさらされている警備員にはたまったものではありません。警備員は意外と気が休まらない仕事なのです。

 また、緊急時にすぐ現場に到着するためには、何階のどのエリアにどのテナントが入居しているかを完璧に覚えていなければなりません。

 そのため、私のいた現場では、「テナント記憶テスト」が行われていました。大小100以上ある企業が、何階のどこにあるかを答えるものです。

 丸暗記しなければ突破できず、不合格が続いた人はいずれ他の現場に左遷されます。やはり、気楽な仕事とは言えない緊張感がありました。

働き方しだいで
警備の仕事は気楽に!?

「気楽な仕事ではない」と言いつつ、中には「気楽そうに(いいかげんに)働いていた」同僚もいます。私の勤務先では、テナントに有名なたばこメーカーが入居していました。

 あるときから、そのテナントの給湯室に大量のたばこの入ったゴミ袋が放置されるようになり、巡回している警備員はみなそのことに気づきました。

 試作品を廃棄していたのか理由は不明ですが、これに色めき立ったのが喫煙者の警備員です。喫煙者で先輩のBさんは、「警備の仕事はお客様の財産を守ること。財産を奪うなんてあり得ない!」と豪語していました。当時喫煙者だった私も、たばこを拝借したいという誘惑に打ち勝ち、警備員としての職務を全うしました。

 しかし、ビニール袋の中のたばこは、なぜか日に日に減っていくのです。なんと犯人はBさんでした。周囲の目を盗んで、そのたばこをうまそうに吸っていたのです。

 Bさんは、自分の「取り分」が目減りしないように、喫煙する警備員たちに「財産を奪うなんてあり得ない!」と釘を差していたのでしょう。大量に盗むとバレるため、少しずつ盗んでいたのでした。

 また、次のような人もいました。私が働いていたビルの巡回ルートには、屋上も含まれていました。屋上からは、東京タワーやお台場など東京の絶景を360度のパノラマで眺めることができます。夜の巡回時には、美しい夜景を堪能することができます。思わず巡回をサボって、寝転びながら頭上の星空を眺めたくなりますが、我慢して巡回を続けるのが普通の警備員です。

 でも、例外はいます。夜景を眺めながら缶ビールを飲んでいた警備員、カノジョを連れてきて花火大会を見ていた警備員など、屋上タイムを満喫している先輩たちがいました。どんな仕事をしていても、「不良社員」というのは一定数いるようです。