もちろん、2の方が奥に進む人が多くなるはずです。1のようにストレートに伝えるよりも、2のように「奥のほうがすいている」と“利益誘導”したほうが人は動くというわけです。

 ナッジの大事なポイントは、どうすれば他人に気持ちよく動いてもらえるか、ということ。そのためには、命令の形を取るのではなく、動いた方が本人にとっても利益になるという伝え方をするのが一番です。

「こちらの道を通ってください」といわず、「こちらの道の方が早くつきます!」といったほうが人の流れをスムーズに変えることができるでしょう。「お墓参りに行きなさい」ではなく、「ご先祖のお墓は、一番のパワースポットですよ」の方が、人はお墓参りに行こうという気になるものなのです。

相手の利益になるように話すのがコツ

 ある立ち食いそばチェーンでは、ゆでたそばが切れて、次の提供までに時間がかかるとき、「5分ほど、お待ちいただけますか?」ではなく、「茹でたてをご用意しますので、5分ほど、お待ちいただけますか?」と答えるようにしているといいます。

「5分ほど、お待ちいただけますか?」では、「立ち食いなのに、5分もかかるのか」と、不満に思うお客さんもいるわけですが、そこに「茹でたてをご用意しますので」とひと言あるだけで、「茹でたてを食べられるのか、じゃあ、待つとするか」と思わせることができます。絶妙な「利益誘導」で相手を「ナッジ(肘でチョンと押す)」しているわけですね。ちなみに、そばやうどん以外の料理を提供する場合には、「茹でたて」を「できたて」にするだけで応用できます。

「損しては大変」と思えば、人は動く

 一方、メリットではなく、デメリットを伝えることで相手の行動を促す方法もあります。

 たとえば、迷惑駐車をやめさせたいときは、「ここに車を停めないでください」ではなく、「このあたり、いたずらが多いんですよ。大丈夫でしたか?」。

「いたずらが多い」という駐車によるマイナスを相手に意識させたうえで、「大丈夫でしたか」と心配してみせれば、実質的には注意しながら“親切な人”と思わせることができるでしょう。

 神社が、「(神社の近くの木のそばで)おみくじを結ばないでください」といいたいところを、あえて「ここは神様のお住まいです」などの貼り紙をするのも、「罰が当たると怖い」という心理に働きかける上手なひと言です。本来、人が木におみくじを結びつけるのは、福運を願ってのことなので、それが神様への“迷惑行為”になると知れば、結ぶ人は大いに減るはずです。