ちなみに「神様のお住まい」という言葉の効果は絶大で、神社近くにゴミを捨てられて困っていたところ、「ここは神様のお住まいです」と貼り紙したところ、捨てられるゴミが激減したという話もあります。

 他人を誘導する時には、まずどんなメリット、デメリットをあわせて伝えたらよいか、事前によく検討すべしというのがここでの結論です。

こんな「言い方」なら誰でもポジティブに受け止める

 頭を下げてただただお願いするよりも、相手を効果的に誘導する方法は、他にもあります。よく知られているところでは、たとえば駅やデパートのトイレで見かける次の貼り紙。

「きれいにお使いいただき、ありがとうございます。」

 使用者の“善意”に訴えて、人を誘導するセリフです。ちょっとした違いですが、「きれいに使ってください」より、「きれいにお使いいただき、ありがとうございます」の方が、「じゃあ、きれいに使おうか」と思う人が多くなるようで、その後、トイレがきれいに使われることがわかっています。

相手の記憶に映像として残るかどうかがポイント

 ここからは、主に広告コピーなどを題材に、相手にビビッドに伝わる言い換えを紹介しましょう。人をうまく誘導して目的を達成し、人間関係をよくするため、ナッジする技術を身につけていきましょう。たとえば、次の言い換えについてどういう印象を持ちますか。

×「おいしい」 → ○「誰も残さない」

「おいしい」「うまい」「美味」といった味覚をめぐる抽象的な表現は、お客の感覚に届かないものです。どうおいしいかを具体的に言い換えるのが、表現のコツ。たとえば「誰も残さない」といえば、そのおいしさを目に見える形で表すことができます。

×「丹念な手作業」 → ○「1枚1枚手仕上げ」

「丹念」という言葉では、どのように丹念なのか、お客に映像的なイメージをいだかせることはできません。一方、「1枚1枚手仕上げ」といえば、手作業ぶりをお客の目に映像的に見えるようにアピールできます。

 ここでご紹介した2つの言い換えは、いずれも商品のよさが、相手の記憶に映像として残ることを意識した言い換えです。さらにいうと、どちらも具体的なイメージを抱かせることができる効果的な表現といえます。