有名なのが、筑前福岡藩の儒学者・本草学(博物学)者の貝原益軒が書いた『養生訓』だ。脳神経外科医で若林医院の若林利光院長は解説する。

「養生訓は、唐の時代に成立した中国の医学書を底本として、古今東西の健康法をまとめた集大成とも言える本。現代から見れば科学的に間違った点もありますが、なぜ養生に取り組むのかや、寿命や欲望の考え方など、今でも通じるものは多い。底本である中国の医学書の著者は102歳、貝原益軒も85歳まで長生きしましたから、長寿者が残した哲学書やエッセーとして捉えるとよいかもしれません」

 益軒自身はもともと病弱だった。長生きできた理由として、若林院長は歯が丈夫だったことが大きいとみている。養生訓では83歳の時にも歯は一本も欠けておらず、視力も衰えていなかったことを明かしている。

「その年まで歯や視力が衰えなかったのは驚異的。歯周病や網膜症のリスクが高くなる糖尿病とも無縁だったと考えられます。歯や目の健康状態は、脳や体の機能の低下を抑えるうえでも重要です」(若林院長)

口をよく動かし唾液の分泌促す

 国立モンゴル医学・科学大学で客員教授を務める岡崎好秀さんも、歯科医師の立場から養生訓に注目する。

「一日に歯を35回、カチカチ鳴らすと歯の病気にならないなど、虫歯の予防法が書いてあります。口をよく動かすと歯や歯ぐきが鍛えられ、虫歯や歯周病を防ぐ効果が期待できるし、唾液(だえき)の分泌を促す。唾液には抗菌作用のあるリゾチームや、IgAと呼ぶ免疫物質といった体を守る大事な成分が含まれます。養生訓は唾液の重要性にも触れていて、学ぶべき点は多い」

杉田玄白が提唱した健康長寿のための心構え「養生七不可」週刊朝日2022年6月17日号より 拡大画像表示

 西洋医学の解剖書を翻訳した『解体新書』で知られる江戸中期の医者で蘭学者、杉田玄白もご長寿だ。85歳まで生きた。玄白が健康のための心得として残したのが『養生七不可』だ。前出の若林院長は言う。