「過去や将来のことに心を悩ませてはいけないと精神衛生の重要性を真っ先に説いています。玄白は動じないところがあり、くよくよすることが体によくないと知っていたのかもしれません。食べすぎや飲みすぎを戒める一方、適度な運動を勧めている点は今の生活習慣病の予防にも通じ、先見性が感じられます」

 平均寿命が40~50歳と言われた江戸時代に、90歳で大往生を遂げたのは浮世絵師の葛飾北斎。「富嶽三十六景」をはじめ、代表作のほとんどは還暦以降に描かれ、遅咲きの芸術家としても知られる。若林院長は、北斎が長生きした一因として、ビタミンB1を多く含むそばをよく食べていたことが影響した可能性があるという。

「そばは動脈硬化を防ぐ効果があるとされるルチンを多く含んでいます。ただ一説には、北斎は、健康のためにそばを食べていたというよりは、孫が作った借金の返済に追われ、白米が思うように買えなかったためだという見方もあります」

 前出の植田教授は、北斎はうつぶせの姿勢で筆を執るなど、ごろごろと寝たり起きたりしていたことが「腸活」につながったかもしれないと指摘する。

「怠けた姿勢に見えますが、寝ながらごろごろと動くと、腸の活動は刺激され、腸内細菌の働きがよくなる可能性もあります。そばは消化がよくないと言われていますが、こうした腸活が消化の助けになっていたのかもしれません」

写真左は杉田玄白らが著した『解体新書』、右は弟子が描いた葛飾北斎の肖像画〈「戯作者考補遺」から〉写真左は杉田玄白らが著した『解体新書』、右は弟子が描いた葛飾北斎の肖像画〈「戯作者考補遺」から〉(いずれも国立国会図書館デジタルコレクションのデータを加工)