“投資市場に毒されていない経営”ってなんだ?

――なるほど。たしかに。

山田:しかも「北の達人」は従業員200名ほどの東証プライム上場企業です。

 日本中、いや世界中の投資家の厳しい視線の中で、あえて投資市場に毒されていない経営を貫いているのは特筆に値します。

 それでいて、営業利益率は20%以上

 従業員一人当たりの利益率も異常に高い

 こんな会社、なかなかないですよ。

――たしかに、銀行からお金を借りて使わない会社なんて見たことがないですね。

 あと、この本のタイトルどおり、売上を最小化し、利益を最大化しようという社長もほとんど見たことがないです。

それでも、なお、利益が大事だよね…

山田:私もほとんど見たことがありません。

 ぶっちゃけ、業界ごとに諸々の事情や慣習があり、企業が売上を下げるのは勇気がいるものです。

 たとえば、あるネット系アプリ会社では、売上が高いと取引先からよい条件で仕事が回ってくる仕組みになっていて、いったん売上が下がると、条件が悪くなるため、なんとしても売上を維持したくなる構造になっています。

 そのため、売上をひたすら伸ばす戦略を取っていたのですが、外注費や広告費がかさんで赤字になってしまいました。

 この状況で、今の売上を維持したまま新規事業に活路を見出そうとすると、さらに赤字を垂れ流すため、本来、既存事業の広告費などをカットするべきでした。

 しかし、売上至上主義にとりつかれている業界にいると、広告費はカットできない。

 なぜなら、広告費をカットすると売上が下がってしまうから。

 このように、赤字が出ていても、売上は下げられない現実、ジレンマは存在します。

 でも、会社が永続するという本来の目的から逆算したら、明らかにおかしい。

 売上至上主義をやめ、利益第一主義から逆算して、今何をすべきかを考え直すのが正しいんです。

 赤字が続いていて、先が見えない事業の広告費ならカットすべきなのです。

 これまでの慣行で続いているからという理由で赤字を垂れ流すと、利益は絶対出ない。

 利益が出ないと、現金は絶対貯まらない。

 売上至上主義は長期的に見て、実に本末転倒なんです。

――まったくそうですね。

 ただ、それができない社長が9割では

山田:ある種、“売上中毒に犯されている社長”が9割です。

 ただ、これはしかたないことかもしれません。

 だって、サラリーマンだって、みんな年収下げたくないじゃないですか。

 年収800万円の人がある日突然、「君は明日から600万円ね」と言われたらテンションはガタ落ち。

 社長だって同じですよ。

 売上が上がり、みんなからチヤホヤされるほうがいい。

 対外的にもハクがつく。

 みんな、売上重視が続いている中で、たった一人、利益の旗を振りかざしても何もいいことがないと思ってしまう。

 でも、それでもなお、利益が大切だよね、という原点に戻らないといけない

 利益がないと現金は残らない。

 経営は現金に始まり、現金に終わるのですから。