『両利きの経営』著者が指摘、日本人の多くがイノベーションを勘違いしているPhoto:PIXTA

日本でベストセラーとなったビジネス書『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』の増幅改訂版が6月24日に発売された。著者の一人であるスタンフォード大学経営大学院のチャールズ・オライリー教授は日本での同書のヒットをどう見ているのか。また改訂版で新たにAGC(旧・旭硝子)の事例を加筆した理由とは。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

なぜ「両利きの経営」は
日本でベストセラーになったのか

佐藤智恵 『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』(以下、「両利きの経営」)が、日本で10万部を超えるベストセラーとなっています。なぜ日本でこれほどのヒットを記録したと思いますか。

チャールズ・オライリー 「両利きの経営」に対しては世界中から反響がありましたが、日本からの反響が際立って大きいのは確かです。その理由は、おそらく日本の経営者がどの国の経営者よりも強く変革の必要性を感じているからではないでしょうか。

 戦後、多くの日本企業は右肩上がりで成長を続けてきましたが、近年は中国企業や韓国企業など新興勢力がどんどん台頭し、激しい価格競争にさらされています。こうした中、日本企業の経営者は「これまでうまくいっていたやり方はもはや通用しないのだから、何か別のことをやらなくてはならない」「会社も、経営者としての自分も変わらなければならない」と痛感しているように見受けられます。

 私たちが「両利きの経営」で示したのは、大企業がイノベーションを創出するための具体的な手法です。これが結果的に日本企業の経営者が今知りたいことにダイレクトに答えることとなり、多くの読者に支持されたのではないでしょうか。

 また、私たちは本書で「大企業は長期的な視点でイノベーションを創出することが大切だ」と提唱していますが、日本企業の経営者は一般的に長期的な利益を重視しますから、こうした視点にも共感していただいたのかもしれません。