高額療養費が適用されると
自費50万円の体外受精の費用は約8万円に

 保険適用によって大きく変わったのは、なんといっても不妊治療にかかる自己負担額だろう。健康保険が適用されたことで、利用者が医療機関に支払うのは、かかった医療費の3割になった。1カ月の医療費が一定額を超えると高額療養費の対象となり、さらに負担は軽くなる。

 たとえば、体外受精をして、医療費が50万円かかった場合、自己負担額は3割の15万円。ただし、一般的な所得(標準報酬月額28万~50万円)の人の場合、1カ月の高額療養費の上限額は、【8万100円+(医療費の総額-26万7000円)×1%】なので、高額療養費が適用されると、自己負担額は8万2430円となる。

 22年3月までの助成金は、1回当たり30万円の給付だったため、20万円の自己負担があったが、その半分程度の負担で済む計算になる。

 高額療養費の上限額は、所得に応じて5段階に分かれており、標準報酬月額が50万円以上の高所得層の場合、同様のケースでは高額療養費の適用にはならない。だが、3割負担でも自己負担額は15万円なので、助成金時代よりも負担は軽減できるようになる。

 反対に、所得の低い層の負担の軽減幅は大きい。住民税非課税世帯の高額療養費の上限額は3万5400円なので、50万円の体外受精が3万5400円で受けられるようになるということだ。これまで、経済的な理由で不妊治療を諦めていた人の手にも、今後は不妊治療が届きやすくなる可能性がある。

 不妊治療をできる年齢や利用できる回数に制限はあるものの、今回の保険適用の拡大は、不妊に悩む人にとって好材料であることは確かだろう。

 一方で、妊娠中の健診や通常分娩の費用は、いまだ健康保険の適用外だ。確かに、妊娠・出産は病気ではないものの、ほとんどの女性が医療機関で出産するようになった今、その医療費を健康保険の適用から外し続けていてよいものなのか。今回の不妊治療への保険適用の拡大が、妊娠・出産にかかる医療費全体にどのような影響を及ぼすのか。今後の議論を見守りたい。