これまでは体外受精や顕微授精は
国の事業で助成されていた

 公的な医療保険の適用範囲は、健康保険法でも、国民健康保険法でも、いずれも「疾病、負傷、死亡、出産」の4つと定めており、法律では妊娠・出産に関する給付も認めている。しかし、「妊娠・出産は病気ではない」という通説のもと、妊娠・出産に関する医療費は、原則的に健康保険は適用されていない。不妊治療に関する医療費も、一部を除いて健康保険は使えなかった。

 これまで、不妊治療に関する医療費で保険が適用されていたのは、不妊の原因を探る検査と、不妊の原因となっている病気の治療(手術や薬物療法)だ。原因が特定できない不妊、治療が奏功しないものは健康保険の適用外で、体外受精や顕微授精などの不妊治療を希望する場合は、原則的に治療費は自費扱いとなっていた。

 とはいえ、体外受精や顕微授精の治療費は、1クール数万~数十万円と高額で、大きな経済的負担が伴う。そのため、これまでは健康保険の代わりに、国の補助金で運営される「特定治療支援事業」で、不妊治療を希望する人の経済的負担の軽減が図られてきた。

 2004年度に事業が創設されたときの助成内容は、給付額が年間10万円、助成期間が2年間だったが、その後、徐々に給付が拡充されていき、2022年3月までは次のような助成内容となっていた。

●2022年3月までの特定治療支援事業
対象治療法:体外受精、顕微授精
対象者:体外受精、顕微授精以外の治療法では妊娠の見込みがない、または極めて少ないと医師に診断された夫婦(2021年1月以降に終了した治療から、一部の事実婚も対象)
年齢制限:治療期間の初日の妻の年齢が43歳未満の夫婦
給付内容:1回30万円
給付回数:女性の年齢40歳未満は通算6回、40歳以上43歳未満は通算3回(1子ごと。女性の年齢は初めて助成を受けた治療期間初日)
所得制限:なし(2021年1月以降に終了した治療から)

 また、2015年度の補正予算で、男性の不妊治療への助成が認められた。さらに2020年度の補正予算では、それまであった所得制限が撤廃されるとともに、戸籍上の夫婦ではない事実婚も一部認められるようになるなど、制度創設当初に比べると、助成内容は拡充されてきた。

 このように、不妊治療に関する国の助成は充実してきたものの、補助金だけで実際にかかる治療費を賄うのは難しい。厚生労働省が実施した子ども・子育て支援推進調査研究事業の「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」(野村総合研究所)によると、体外受精の費用は、1クール当たり平均で約50万円かかっている。助成金30万円では、すべてを賄うことはできず、残りの約20万円は持ち出しだ。また、自由診療の不妊治療は医療機関ごとに費用にもバラつきがあり、中には1クール90万円以上という施設もあった。

 だが、この4月から健康保険が適用されたことで、不妊治療の経済的負担は大幅に軽減されることになった。