今でもクルアーンは声を出して詠唱するのが原則
マッカの街は古くから、交易都市として栄えていました。
町の広場には多神教の神々を祀(まつ)る神殿(カアバ)がありました。
カアバとは立方体という意味です。
この方形の神殿の広場に交易商人が集まっては定期的に祭典を開いていました。
紅海からインド洋へ出かける船旅や、マッカから砂漠の多い道をメソポタミアや地中海へ至る半島の旅路が安全であること、そして、交易の成功を祈るためです。
この祭典のときに商人たちは、交易の旅の思い出や安全を祈る気持ちを、詩の形にしてメロディにのせて、声高く詠唱しました。
そしてお互いに、その優劣を競い合ったのです。
カアバ神殿の、この行事は有名でした。
そして、最も優れた詩歌は布に書かれてカアバ神殿にかけられたのです(カアバを包む黒い布、キスワの淵源(えんげん))。
マッカで生まれ育ったムハンマドは、何度もその詩の朗読を、というよりも歌を聞いたことでしょう。
イスラーム教の聖典がクルアーンとなったのは、このようなムハンマドの体験と決して無関係ではありませんでした。
ムハンマドは勝利を収めてマッカに戻ってきたとき、カアバ神殿に祀られていた多神教の神々の偶像をすべて破壊しました。
しかし神殿そのものは、イスラーム教の大切なモスクとして存続させたのです。
アラビア人にとって大切な神殿であったことを重視したのでしょう。
天使のジブリールから授けられた神の言葉を声に出して詠唱した文章が、クルアーンになったわけですから、今でもクルアーンは声を出して詠唱することを原則としています。