
東京大学と東京都監察医務院の研究者が、東京23区で2013~23年に熱中症で死亡した約1450例を調べた結果、室内で死亡していた1295例のうち、16.4%にあたる213例が「エアコンを適切に使いこなせていなかったために死亡に至った」と推測されることがわかった。
室内死亡例を詳しくみると581例が「エアコンがオフ」、381例は「エアコンの設置なし」、129例は「故障していた」と報告されていた。
問題は84例、6.5%で「エアコンはついていた」にもかかわらず、死亡者が出てしまったことだ。現場検証情報によれば、室温はいずれも高く、エアコンの設定の問題だったことが明らかにされている。実際の例では
1.リモコンの設定は28度だったが、「暖房」設定だった。
2.エアコンはついていたが、送風モードだった。
3.掃除モードになったままだった。
4.送風口にホコリがつまり、風が出ていなかった。
5.エアコンをつけていたが、電気毛布を使っていた。
などの報告があがっている。
エアコンがついていた状態で死亡者が出た世帯のうち、8割は1人暮らし、または高齢夫婦世帯だった。
研究者は「暑くなる前にリモコンの電池交換や通風口・フィルターの掃除を」と注意を促すと同時に、「1人暮らしの高齢者や高齢夫婦だけの世帯については、家族や近隣の住民が訪問して『エアコンの設定モード』と使いこなせているか否かの確認を」と呼び掛けている。
高齢者は若者に比べ、体温を調節する機能が低下し、気化熱で身体を冷やす汗の出が悪くなる。また、皮膚表面に近い血管を拡張して体内の熱を放出する機能も、血管が硬くなっているためうまくいかない。
また、体内にためられる水分量も若年者より減っているので、喉の渇きにも気付きにくい。これに認知機能の低下が加わると熱中症の初期症状に気付かず、対策をとれないまま重症化、死亡に至ってしまうのだ。
今年の夏は昨年にもまして猛暑が予想されている。今のうちに老親の家のエアコンをチェックしておこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)