オーナーが98.5%の株式を保有
ガバナンスにも問題が…

 鈴鹿を経営する株式会社アンリミテッド(本社・三重県鈴鹿市)の発行株式の実に98.5%を、オーナーで前会長の西岡保之氏が保有していた。しかも、アンリミテッドの常勤取締役は前代表取締役社長の吉田雅一氏だけで、非常勤だった監査役の権限も会計監査に限定された状態にあった。

 必然的に取締役会は形骸化かつ有名無実化し、クラブとしての意思決定においては、吉田前社長を介して西岡氏の意向が強く反映されるゆがんだ体制が長く継続されてきた。

 未遂に終わった八百長行為も、経緯をさかのぼっていけば西岡氏の存在に行き着く。20年11月のソニー仙台との最終節を前に、ライバルのヴィアティン三重が県勢初のJクラブになる状況を阻止するために、三重よりも上位にいた仙台に鈴鹿が負けたほうが望ましいと判断したからだ。

 オーナーの影響力を排除するために、鈴鹿は西岡氏が持つ全株式を第三者へ譲渡することで合意。西岡氏と、同氏が代表取締役を務める株式会社ノーマーク(本社・東京都港区)と利害関係がない点を大前提として、地元や近隣地域の企業を中心に協議を進めてきた。

 旧体制の反省を生かして株主を複数に分散させ、株主間でも監視および監督ができる体制作りを目指したが、理事会を迎えた段階で正式な譲渡契約は一つも結ばれていなかった。

 鈴鹿と西岡氏の間に入る弁護士へ全株式が信託譲渡されている状態を、Jリーグの大城亨太クラブライセンスマネージャーは「98.5%の行き先は全く決まっていない」と判断した。

カズの兄が「一人三役」の仰天人事
鈴鹿は信頼を回復できるのか

 取締役に関しても21日の臨時株主総会で、吉田前社長を含めた4人の役員全員が辞任。新たに6人の役員選任が決議された中で、昨年7月から鈴鹿の監督兼GMを務めてきたカズの実兄、三浦泰年氏が代表取締役も兼任する仰天人事も敢行されている。

 なぜ仰天なのかと言えば、Jリーグではクラブの監督と運営会社の代表取締役の兼任は認められていないからだ。JFLだからこそ実現できた一人三役を、鈴鹿は次のように説明している。

「自治体やステークホルダー、そして選手や従業員からの信頼が非常に厚いためです」

「Jリーグ史上初の厳罰」が鈴鹿に下った当然の理由、所属のキングカズも災難鈴鹿ポイントゲッターズ・三浦知良ののぼり 筆者撮影

 三浦泰年氏が放つポジティブな存在感を前面に押し出し、あしきイメージの払拭を図った人事と言っていい。背景には三浦氏の希望で今シーズンから加入した、カズのブランド力もあったはずだ。

 鈴鹿側は本田技研工業鈴鹿製作所に勤務経験があり、今春までタイの現地法人社長やアドバイザーを務めた鈴鹿市出身の山口隆男氏を代表取締役社長として選任。代表取締役を2人体制として、さらに取締役副社長、専務取締役も常勤として、取締役会が健全に運営される仕組みを作った。

 株式譲渡の方針と一連の人事を鈴鹿側が発表したのは、理事会前日の27日。管轄する津地方法務局へ取締役変更などの申請書類を提出したタイミングだったが、あまりにも遅すぎた。

 新たな取締役体制を評価した大城クラブライセンスマネージャーは、同時に「新体制がスタートしたばかりなので、実際にどのように機能していくのかが確認できていない」とした。