人間関係における「贈り物の費用対効果」を
バカにしてはいけない

 別の例ですが、仕事の人間関係について一度気になって真面目に調べたことがあります。仕事で知り合う人は1年で100人を超えるものですが、その中でその時の用事や仕事が終わった後も継続的に会ったり、別の形の仕事に発展している人をリストアップして「なぜそのように人間関係が深まったのか?」を調べてみたのです。

 5年ぐらい前の話で、その時点での「過去3年ぐらいに新たに知り合って仕事で親密になった人」について、親密になった経緯を思い出せる限り思い出したのです。

 誘い誘われて一緒に食事に行ったみたいな経緯は、100%のケースで当てはまるのですが、実は私のような仕事では会食は仕事の一部で、年間何度も人と会食をしています。そして会食だけでは、あまり親密になれない経験も何度もしています。

 それで他の要素はないか?と思ってリストアップすると、半数強のケースでは距離が縮まるプロセスで、私が何らかの贈り物をもらっていることが判明しました。

 パターンとしては、

(1)訪問時にさりげなく「昨日どこどこに出張したときのおみやげです」と渡された
(2)2~3度目に会ったときに「これ好きだとおっしゃっていましたよね」と渡された
(3)会食でお会計が済んだ後、帳場でお土産を渡された

 みたいに、何かをもらっているのです。

 それで興味がわいて、その直後のその人とのやりとりを確認したら、今度は100%と言ってもいいケースで、その10日以内に私は何かを頼まれていて、それを引き受けているのです。

 もちろん私の場合、何かをいただくとか、会食でご一緒するといったことは、仕事柄比較的頻度は多いのです。それで何も起きない場合もたくさんあると思います。

 ただ確率の問題で、何かをもらって心理的に借りを感じている短い期間(10日以内)に何かを引き受けてしまい、その後、それがきっかけになって何らかの関係が始まるというパターンが有意に多い。

 つまり、「贈り物の人間関係に対する費用対効果は無視できないぐらい大きい」というのが私自身の発見です。実は私は仕事のポリシーとして、あまり金では動かないことを自覚しています。でも、贈り物だとなぜかその人に借りを感じて動いてしまう。

 ここに行動経済学的な矛盾というか、不思議が存在するようです。

 では、仕事で悩む一般のビジネスパーソンの場合、このメカニズムがどう応用できるのでしょうか?

「そもそも賄賂は嫌だな。それに会社の仕事なんだから身銭を切るのはおかしな話だ」というのは正論です。でも、仕事を違法なこと以外は何でもありのゲームだと考えたら、身銭を切って部下やビジネスの相手に贈り物をするのは「結果を金で買う良い作戦」と割り切ることだってできるわけです。