しかも、75歳に繰り下げると65歳から受け取るのと比べて、受け取る年金額が84%も増える。つまり、75歳まで繰り下げると「ほぼ2倍」の年金を受け取れるようになったのだ。これが受給開始を遅らせることのメリットで、ここが年金大改正の最大のポイントといえる。

「できるだけ長く働き」、年金の受給開始を「遅らせれば遅らせるほど」、受け取る「年金が増えていく」仕組みへと変わったといえるだろう。

やみくもに受給開始を「繰り下げればいい」というわけではない

 もう少し詳しく説明しよう。勘違いしている人もいるかもしれないが、繰り下げたからといって「75歳にならないと年金を受け取れない」というわけではない。70歳以降、75歳までの間で自分が何歳で年金を受け取り始めるかを選べるようになった、つまり、選択の幅が広がったということ。

 受給開始の時期は、「1カ月単位」で遅らせることができ、70歳3カ月から受給開始することも、74歳11カ月から受け取ることもでき、1カ月遅らせるごとに年金額が0.7%増える。受給開始を1年間繰り下げると0.7%×12カ月=8.4%増えることになり、超低金利時代の現在、これほどに高利回りで、しかも確実な運用手段は他にないと言い切っていいだろう。改正前の上限だった70歳まで繰り下げた場合で増額率は42%、改正後の75歳まで繰り下げると実に84%と、年金の受給開始を遅らせるだけで確実に受け取る年金を増やすことができるようになったのだ。

 とはいえ、やみくもに受給開始を「繰り下げればいい」というわけではない。

 年金の受給開始を遅らせれば遅らせるほど、受け取る年金が増える仕組みとなり、しかも、何歳から年金を受け取るのかを自分で決められるようになったことで、悩ましい問題がでてきた。

 それは、「いったい何歳から受け取り始めれば、生涯で受け取る年金の総額をもっとも多くできるのか」ということ。遅らせれば遅らせるほど、受け取る年金額が多くなるとはいえ、やみくもに受給開始を遅らせればいいのではないことは、容易に想像がつく。

 極端な話となるが、75歳まで受給開始を繰り下げても75歳1カ月で死んでしまったら繰り下げ増額の意味がなく、65歳からもらっていたほうが生涯にわたって受け取る年金の総額が断然、多くなる。

 年金を何歳から受け取り始めれば、生涯にわたって受け取る年金の総額をもっとも多くできるのか、その悩ましい問題についての答えは、実際のところ「寿命」という不確実な要因によって左右されてしまうところが大きい。100歳まで確実に生きるとわかっていれば、受給開始年齢を75歳までに繰り下げ、「1.84倍に増額された年金」を25年間、受給するのがベストだ。ところが、「何歳まで生きるか」は誰にもわからない。