もちろん、悩みのタネは寿命だけではない。仮に年金の受給開始を75歳までに繰り下げたら、65歳から75歳までの10年間の繰り下げ期間(待機期間)の生活費をどうするのかも考えなくてはならない。待機期間中の生活費を問題なく手当できる人なら繰り下げ受給を考えることはできるが、生活費のメドが立たないなら、その間は「貯蓄を取り崩す」、「年金をもらいながらも働いて収入を得る」などの対策が必須となる。

 このように、年金を何歳から受け取るのが最もおトクになるのか、年金戦略を立てていくには、さまざまな悩みのタネを自分で整理して解決していく必要があるのだ。

夫婦の「年金戦略」、繰り下げで年金が減ってしまうことも

 もうひとつ、「やみくもに受給開始を遅らせればいいわけではない」大きな理由がある。

 それは、「年金戦略は、夫婦で考えるのが原則」だからだ。つまり、夫婦で生涯にわたって受け取る年金の総額をもっとも多くするにはどうしたらいいのかを考えると、やみくもに受給開始年齢を繰り下げればいいというわけではなく、むしろ受給開始を繰り下げてしまうことで、受け取る年金の総額が減ってしまう可能性すらあるのだ。どういうことか。

 典型的な年金世代である「夫が会社員で妻が専業主婦」という夫婦で考えてみる。生涯にわたって受け取る年金の総額を最も多くするには「年齢差」と、年齢差に応じて妻が受け取れる「加給年金」をどう考えるかがポイントになる。

 加給年金とは、「年金の配偶者手当」とも呼ばれる制度だ。厚生年金に20年以上加入している人が、65歳になった時点で「65歳未満の配偶者(妻もしくは夫)」がいる場合、配偶者が65歳になるまで「毎年38万8900円」が支給される。

 例えば、65歳の夫と、5歳年下の妻という夫婦で、夫が20年以上、厚生年金に加入していた場合なら、夫が65歳で老齢厚生年金の受給を開始すると、5歳年下の妻が65歳になるまでの5年間に毎年38万8900円、合計で約195万円が、夫の老齢厚生年金に加算されて支給されることになる。金額の大きさに驚いた人もいるのではないだろうか。

 この加給年金を、しっかりと理解しておくポイントは2つある。

 まずは、年齢差が大きければ大きいほど受け取る金額が増えるということ。夫65歳、妻55歳の「10歳差夫婦」なら、38万8900円×10年間で、じつに400万円近い金額を受け取れることになる。

 約400万円ともなれば、老後の生活においては、ちょっとした財産になる金額だ。ぜひとも受け取りたいと思うだろうが、じつは年齢差がある夫婦なら誰でもが受け取れるというわけではない。それが、もうひとつのポイントだ。