海外での病気やケガで健康保険の海外療養費が使えるが
全額返ってくるとは考えないほうがいい

 日本では、COVID-19は感染症法の新型インフルエンザ等感染症に分類されており、原則的に治療にかかった医療費は全額公費負担となっている。高所得層については、月額2万円程度の一部負担金を設けている都道府県もあるが、ほとんどの患者は無料で医療を受けられる。だが、このルールが適用されるのは日本国内のみだ。

 海外では外国人旅行者がCOVID-19の治療を受けた場合、かかった医療費は、原則的に全額自己負担になると考えておいたほうがいい。治療にかかる医療費は、国や地域、症状などによっても異なるが、中等症でも数百万円。重症化して、人工呼吸器や人工心肺などが使用された場合は、数千万円単位になる可能性もある。

 日本でCOVID-19の治療費が無料になるのは、税金でその費用が賄われているからだが、通常は公的な医療保険(健康保険)を利用することで、かかった医療費の一部を負担するだけで、必要な医療を受けられるようになっている。この医療費の支払いシステムが通用するのは、日本の保険医療機関だけで、当然のことながら海外で健康保険証を見せてもなんの効力もない。

 そのため、海外旅行中や海外赴任中などに病気やケガをして、現地の医療機関を受診した場合は、原則的にかかった医療費の全額が患者本人に請求される。

 ただし、健康保険には「海外療養費」という制度がある。これは、患者が健康保険に申請することによって、海外で全額自己負担した医療費の一部を払い戻してもらえるというものだ。

 海外療養費の対象になっているのは、日本国内で健康保険が適用されている治療や薬のみだ。美容整形や予防目的の治療などは対象にならず、最初から臓器移植や先進医療などを受ける目的で渡航した場合も、海外療養費は適用されない。

 また、払い戻される金額は、海外で受けた治療と同様のものを、日本で受けたと仮定し、両者を比較してどちらか低いほうの金額が支払いの基準になる。そこから、年齢や所得に応じて決まっている自己負担分を除いた金額が支給される。

 たとえば、現地の医療機関に支払った医療費の合計が30万円(円換算、以下同)で、このうち日本で保険適用されている治療が10万円だった場合は、残りの20万円分の治療は、海外療養費の対象から除外される。

 さらに、海外療養費の対象となる10万円についても、日本で同様の治療を受けたと仮定して、払い戻される額が決められる。たとえば、この治療を日本で受けた場合の医療費が5万円だった場合は、低いほうの5万円が医療費計算の基になる。そのため、70歳未満で3割負担の人が還付されるのは、自己負担分の1万5000円を差し引いた3万5000円。

 現地の医療機関に支払った30万円のうち、健康保険から還付を受けられるのは3万5000円で、残りの26万5000円は患者の自己負担になる。