一定規模以上の企業であれば、多少なりとも事なかれ主義が存在すると思われるが、組織における予測市場はしばしば「不都合な真実」を明らかにしてしまう装置なのである。

 たとえば、プロジェクトの納期などを予測した場合、納期を厳守する必要のある管理職は実際の不安とは裏腹に、厳守される「つもり」で会議に臨むだろう。しかし、遅延が確定的な現場を知るメンバーはそのことを会議で述べるかと問われたら、なかなか正直に述べられるものではないことは明白だ。一般に新人研修などで、悪い情報は早めに報告するようにと指導されるものだが、本当に深刻な悪い情報はなかなか報告されないのは、組織に属した経験のある者であれば納得するのではないだろうか。

 予測市場はそのようなツールであるから、企業内で導入するには経営者の理解が必要であるとされている。しかし、会社の現実と真摯に向き合う心構えのある経営者にとっては、有効なツールである。

硬直化する組織の処方箋として

 一般に組織は時間の経過とともに肥大して硬直化するとされる。非効率になった組織は市場の圧力にさらされ、市場から退出することを求められる。そのため、硬直化しやすい組織の柔軟性、革新性を維持するのは、経営者の重要な仕事である。

 その方法の一つとして、組織の中に市場メカニズムを導入するというアプローチがしばしば見られる。従業員個人のレベルでは、営業のようにパフォーマンスが計測しやすい分野を中心として成果主義的な市場メカニズムを導入している会社も多い。

 成果主義の影響評価では、営業成績に対する報酬そのものが市場(競争)によって配分されることを意味する。また、かつての京セラのアメーバ経営のように、大きな組織を仮想的な小規模組織に分ける手法もある。小規模組織ごとに仮想の会計を適用し、管理・評価を行うといった仕組みである。

 予測市場の導入も、程度の差はあるものの、組織内における市場メカニズムの活用であるといえる。その際に、予測市場が市場化するものは、経営上重要な情報に対する見方や考え方である。いわば経営情報の市場化・オープン化である。ただし、これは少しわかりにくいので説明しよう。