たとえば、一般の組織で売上の予想等の重要な決定を行う場合、担当者が作成した値を元に、経営幹部が会議で決める事が多いだろう。建前としては、担当部署に関する様々な情報を保持している幹部が、議論により総合的に決定していると考えることができる。だが、多くの場合その決定プロセスは透明性が低く、一部の担当者と幹部の意向が影響する独占状態になっていることが多い。そのような独占が本来あるべき認識を歪めることはよくある組織の問題である。

 一方、予測市場を導入することで、組織の経営見通し決定に参加できる人数は飛躍的に増大し、よりオープンな決定が行われることになる。同時に、ユーザは自身の利益や名誉がかかっているため、真剣に参加することになる。そのような経営情報のオープン化・市場化により、より分権化したしなやかな意思決定が可能となることが期待されることになる。

 なお、選挙の予測市場など、一般に公開されている市場で現金取引をすることは賭博行為になる恐れがあるが、企業内のボーナスの一部を予測市場の成績によって変動させることは可能である。そのため、予測市場を導入している会社では、金銭的なインセンティブを用意している場合が多い。また、その予測に関して自信がない社員は参加しないことで、自分自身の評価を守ることもできる。

組織にとってのよい緊張

  一般的に、民主主義的な自由な言論と組織の政治力学は対立するものだ。野党時代には政府の方針に批判をしていた議員が、与党になった瞬間に批判をやめるのはよくあることである。組織の圧力に負けずに必要な批判を加えるのは勇気を要する。まして、伝統的な会社の概念では、従業員は経営者により雇用される立場の弱い存在にすぎない。そのような従業員が組織の政治圧力に対抗することは難しいことかもしれない。

 しかし、21世紀に入り、従業員が命令されたことだけを機械的にこなすような役割を期待する企業は時代遅れであろう。特に先進国であれば、単純労働はロボットか途上国で行う仕事であり、先進国の高い賃金水準に耐えられる仕事ではない。広義の情報産業やクリエイティブさが求められる仕事では、高い付加価値を実現するためには、多様な発想にもとづく柔軟な製品デザインが求められる。そのような環境下で、異なる意見を封殺するような従業員に対する封建的な振る舞いは、自ら成長する可能性を放棄しているようなものであるといえよう。