1日4回、毎回30分以上戻ってこない

「どのくらいの時間こもってるの?」
「メンバーの話をまとめると、午前中2回、午後も2回、勤務時間中に合計4回トイレのために離席し、1回ごとに最低30分以上戻ってこないそうです」
「それは確かに長いね。体の具合でも悪いのかな?」
「私も心配になったので、Cさんに何回も尋ねましたが、その度にうつむいているだけでウンともスンとも言いません。なんか変ですよね?」

 そして、さらに続けた。

「私も会議への出席や他の仕事がありますから、Cさんの都合に合わせて業務指導をすることはできません。それに男性用のトイレですが、個室が1つしかないので、いつもCさんに占領されて利用できないと他の男性社員から苦情が出ています。私ではもう手に負えないので、A部長からCさんにトイレにこもっている理由を聞いてもらえませんか?」

 A部長は、その日の午後Cと会議室で面談した。

「B課長から聞いたが、君、トイレに長時間こもっているそうだね。どこか具合でも悪いのか、それとも仕事上で悩みでもあるのかな?何でも遠慮せずに話してほしい」

 A部長は優しい声でCに尋ねたが、Cはうつむいたまま何も答えようとしなかった。そこで言葉を変えてCに何回か同じ意味の問いかけをしたが、なおも無言を貫くCの態度にA部長は困ってしまった。

トイレの個室が空かない!

 翌日の朝、A部長は出社するなりダッシュして会社のトイレに駆け込んだ。昨日の夜、久しぶりに家族で焼き肉を食べに行き、冷え冷えの生ビールのジョッキを片手に大好物のカルビを1キロも平らげた挙げ句、おなかを壊してしまったのだ。

 トイレを終え、ドアを開けるとすでにCが待ち構えていた。あわてて外に出たA部長と入れ違いに個室トイレに入ったCはすぐに中から鍵をかけた。

 10分後、またしてもおなかが痛くなったA部長。あわててトイレのドアに手を掛けると、中から鍵がかかっていた。何とか我慢しながら10分待っていたが出てくる気配がない。きっとさっきからCがこもり続けているに違いないと確信したA部長は、ドアをたたきながら言った。

「早く出てこい!こっちは腹が痛くて困ってるんだぞ!」

 痛みに耐えながらトイレの扉をたたき続けると、やがて中からCが出てきた。これはいよいよ変だと感じたA部長だったが、この日は体調が悪く自分の仕事をこなすので精いっぱいだったため、Cに事情を聞くことはしなかった。