そんなに困っているなら彼をクビにしよう

 次の日の午前中、管理職会議に出席したA部長は、終了後D社長に呼び止められた。

「新しく入ったC君だが、仕事は頑張っているかな?」

 A部長が、Cのトイレ事情が原因で業務指導がほとんどできていないことを話すと、D社長は立腹した。

「毎日トイレに長い時間かけてるようじゃ仕事にならん。そんなに困っているならC君をクビにしよう。これで一気に問題は解決だ。あとの処遇は社員の人事権を持つ君に全部任せた!」

 そしてD社長は鼻歌を歌いながらその場を去った。

「C君をクビにしろとか、あとは任せたとか、まったく社長ときたら……。しかしどうにかしなきゃならん。まずはE社労士に相談してみよう」

 A部長は、E社労士に連絡をし、次の日の午前中にZoomで面談をしたいと伝えた。

まずはトイレにこもっている理由を明らかに

 次の日、A部長はCの件の詳細をE社労士に説明し、暗い顔つきでE社労士に尋ねた。

「Cさんにいくら理由を聞いても答えないし、D社長はクビにすればいいと言うし……。私はどうしたらいいのでしょうか?」

「まずCさんが長時間トイレにこもっている理由をはっきりさせる必要があります。なぜならその理由によって会社の対処方法が違ってくるからです。A部長が大変なのはよく分かりますが、引き続き丁寧な対応を心がけてください」
「例えば、C君がトイレにこもる理由にはどんなことが考えられますか?」

<社員が通常的に長時間トイレを利用するおもな理由>
(1)身体の不調や病気がある
 腹痛、下痢、眠気があるなどの症状があり、長時間仕事ができる状態ではない
(2)メンタルヘルス不調になっている
 転職したことによる生活環境の変化、仕事が合わない、職場内のコミュニケーション不足などの職場環境が原因でメンタルヘルスに問題が生じ、仕事をこなすことが不可能な状態に陥っている。(1)の原因になっていることも多い
(3)社内でパワハラ等のハラスメントを受けている
 上司や先輩などから厳しすぎる指導やハラスメントを受けているなどの理由で、顔を合わせるのが苦痛になっている
(4)意図的に自分の仕事をさぼっている
 スマホをいじったり居眠りをしたりするなど、個室トイレの中で、仕事に関係がない個人的な行為をしている

 A部長は腕組みをしながら言った。